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第35話
まだ14年と少ししか生きて来ていないけど、こんなに怖いと感じた事はない。
同じ学校の、歳もさほど離れていない人なのに、発するオーラがすごく嫌な感じで、僕が出会った数少ない人の中でも最悪な部類の人。
この進学校にも、こういう感じの生徒がいたのだと知った。
「ねえ、おいでって!・・・」
そういうと、僕の手首を掴みに来た。
「ぁ・・ヤ・・デス・・」
精一杯の抵抗が、こんなに小さな声って・・・・・・
自分でも情けなくなるんだけど、今はこれが限界だった。
「ぁ、の~・・・先生が・・・」
開いている後ろの扉から顔を出した日下部くんが、二人に向かって言った。
「は?・・なんだよ!」
二人が怖い目を日下部くんに向けるが
「おい!何してるんだ?お前ら高校生だろ、中学生に何の用事だ?」
廊下の端で大きな声がして、僕たちが視線を向けると、そこにいたのは有沢先生だった。
「ヤベ・・・・・」
二人が小声で言う。
「何やってんだ?」
近づいて来た先生が、もう一度二人に聞いた。
「ヤ、なんでも・・・ないです。」
慌てて僕の手を放すと、二人はその場を離れていく。
まるで逃げるように、速足で廊下を歩いて行く姿を僕は胸を撫でおろしながら見ていた。
‐先生、ありがとう -
心の中でお礼を言うが、先生は僕にも質問をぶつけてくる。
「何かあったのか?・・知り合いじゃないよな?!」
僕は固まった。
あの二人との関係性を話したくない。知られたら嫌だ。一気に冷汗が吹き出すのを感じて、また心臓がバクバクする。
「あの人たち、佐々木くんに合わせろって・・・」
僕の後ろで北村くんが言ってくれた。
「え?・・なんで・・・?」
「佐々木くんは、上級生から可愛いって言われてて、人気があるみたいです。」
北村くんが、先日僕に話してくれたことを先生には少しニュアンスを変えて話した。
まさか「食っちゃいたい」なんて事は言えないから.....。
「そう、か。・・・まあ、人気があるってのはいい事だけど、あんまり強引なのは困るよな?」
僕の顔を覗きこむ様に言うから「はい」と頷いた。
内心ホッとする。
正直にあの事実を話すのは、まだ怖くて.....。
自分に何が起こったのかも今一つ理解できていないし、説明ができない。
「まあ、気をつけろよ?」
「はい、ありがとうございます。」
僕の顔をもう一度伺うと、また歩いて行って突き当りを曲がった。
先生の姿が見えなくなって、やっと僕は安堵する。足の力が抜けそうだったけど、日下部くんが僕の背中を支えてくれたから、なんとか堪える事が出来た。
「ありがとう。助かった・・・」
僕が日下部くんと北村くんに言うと、ううん、と二人は首を振っただけ。
僕一人だったら拒めなかっただろう。今頃引きずられて連れていかれてたかも・・・。
そう思うと、二人がいてくれたことに感謝する。僕は弱い人間だけど、一人では力不足だけれど、”友達” がいてくれることで、ここに立っていられると思った。
今まで、誰とも交わりたくないと思っていた僕。
誰にも見られず、ひとりの世界でいられたらいいと思っていたのに.....。
僕の中で、友田さんの存在と共に何かが広っがていくのを感じていた。
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