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第36話

 下校時間になると、賑やかな声が校舎に響き渡り、僕たちのいる部屋にも伝わってくるようだった。 身体がソワソワして、早く帰りたいと思うけど、僕らが帰るのは静かになってからになる。 みんなと顔を合わせないようにするのは、自分でも変だと思っている。 コソコソ逃げ回っているみたいで.......。 なぜか負い目を感じてしまう僕たちは、他の生徒の目が怖く思えてしまうんだ。 きっと、僕が思う程、他人は僕を気にしていないのかもしれないけれど、自意識過剰とでもいうのか、視線が自分に刺さるようでいたたまれなくなる。 「ねえ、あそこ・・・・・」 窓から外を眺めていた日下部くんが、僕に手招きをして言った。 「え?どこ?」 近寄って行くと、窓越しに日下部くんの指差す方角を見る。 3階のカウンセリングルームの隣にある部屋から見えるのは、校門のところにいる背の高い他校の男子。その姿を確認すると、僕と日下部くんは互いの顔を見合った。 そこに見えるのは、浩二さんの姿で......。 それからもう一人は、この間の浩二さんの友達なのか、あの日僕を抱えて運んだ人だ。 すごくイカツイ身体で、茶髪の人だった。 遠くからでも、人相が悪そうなのが伝わって、絶対に関わりたくない部類の人だったけど、こんな所で何をしているんだろうか...........。 浩二さんとは、朝にも出会ったけど、何かのテイサツをしに来たらしかった。 友田さんの指令とか、ナントカ言ってたっけ.......。 ぼんやりと二人の様子を見ていると、ここの生徒たちにも遠巻きにされていて、完全に浮いた存在。誰かを待っている様だけど・・・まさか僕?!・・・まさかね・・・ 「あッ。」 日下部くんが声を出したのは、昼間、僕の所にやって来た二人が浩二さんたちの前を通りかかった時、腕を掴まれて連行されていったからだった。 「「どこ行くんだろう・・・?!」」 僕たちは同じ様に言った後で、なぜかあわてて部屋を出て行った。 --  --  --   「はぁ、・・はぁ・・・ど、こ行ったのかな?」 僕と日下部くんが走って校門まで来た時には、そこに彼らの姿は無くて.......。 生徒の姿もまばらだったけど、僕たちは連行されていった方向へ足を進めた。 学校の少し先には、目立たない場所に自転車通学をする生徒のための駐輪場があった。 近づいていくと、奥まった所のトタン屋根の下に、浩二さんの姿が見えて。 僕はなんだか胸がドキドキして、唾を飲み込むと、二人で息をひそめて木製の柵の影に隠れた。 「おい、お前らアレだってなぁ? アユムくんに、ちょっかい出してるってホント?!」 浩二さんが二人の方を振り返ると言った。 「だれ?アユムって・・・」 豹の様な眼をした人が聞く。 「ぇ、知らねぇの? 青い目の・・・チュウボー。」 「ああ、アイツ、か・・・アユムっていうんだ・・へぇ・・・で?」 あの高校生は、完全にビビっている。 強がってはいるけれど、浩二さんたちの体格の良さというか、威圧感にはかなわない。 「アユムくんにちょっかい出すって事は、小金井さんに睨まれるって事だからな?分かってんのか?」 「え・・・」 - あれ?小金井さん・・って、確か浩二さんも苦手な人なんじゃ?! 「な、んで.....小金井さんと?」 「アユムくんて小金井さんの隠し子なんだよ?」 「ぇえッ???マジ?・・・ヤッベぇ・・・」 「今度ちょろちょろしたら、お前ら飛ばされちゃうよ?」 「・・・う、・・ぅ・・」 「分かったら、卒業までおとなしく寝とけ!いいな?」 「・・・・ぅ、ああ、・・わ、かった。」 僕には全く訳が分からなかったけど、あの二人は小さくなって帰って行った。 〔小金井さんて・・誰?・・隠し子とか、ウソだし。〕 大きな疑問は、強面の浩二さんたちと、・・・それから、これを指示した友田さん。 一体どうなってるんだろう.........。 また一つ初めての経験をした僕は、だるそうに帰って行く浩二さんたちを静かに見つめる事しか出来なかった。

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