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第44話

 前に一度来た花屋の店内には、清々しい花の香りが立ち込めていて、僕の気持ちもなんだか和らいだ。 「ありがとう、佐々木くん。そうしたら、そこのバケツにここの花を入れ替えてくれるかしら?」 - え?----- 僕が運んできた大きな袋の中には、透明なアクリル製のバケツというのか、円柱形の入れ物が入っていて、お母さんが指示したのはこれの事だった。 「あ、はい。」 友田さんのお母さんは、アクリルバケツに水を張ると、テーブルに広げた花ばなを同色に振り分けながら僕に手渡した。僕はそのままバケツに入れ込んで、少しだけ形のバランスを見る。 普通は、花の種類別に水入れに入れてあるのに、お母さんの所は花の色でひとくくりにしている。だから、花束を作るとき、同色でもいろいろな種類の花が入っているんだ。 「やっぱり佐々木くんは、花が似合うわね?!」 何気なく聞いていたが、前に僕のお母さんも言っていた気がする。 「そんな事無いでしょ?!僕なんて・・・」 はにかんで言うと、お母さんはクスッと笑って 「ごめんね?男の子に・・・フフツ・・・でも、謙が言ってたから。」 「え・・・友田さんが、ですか?」 「そうよ、ブルースターの様な子だって!・・ホント、そんな感じ。」 僕の瞳が青いからなのかな?と思ったけど、ちょっと嬉しい。 「友田さんは、あ・・・謙さんは花が好きなんですね?」 友田さんの事を謙さんと呼んだのは、お母さんも友田さんだから。 ”謙さん”なんて、渋すぎるって言われたけど、”謙ちゃん”なんて恥ずかしくて呼べない。 「謙は小さな頃から大好きよ?あの子あなたにも花の事ばっかり言ってるんじゃない?ハーブティーの話とか。」 「あ、・・・はい。よく聞きます。」 「ははは、やっぱりかぁ。ごめんね?珍しいでしょ、男の子の話題が無いのよねえ・・・」 少しだけ困ったような顔で言った。 僕は、友田さんのお母さんが慣れた手つきで葉っぱを取り除くのを見て、同じように真似をしてみた。 花を触っていると、心が落ち着く。いい香りに癒され、余分な葉っぱを取り除くと、花もスッキリした顔になって、しゃんと背筋が伸びていく。 この幸福感は、言葉には言い表せないんだけど、友田さんの気持ちは、僕にもなんとなく分かった様な気がした。

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