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第46話
マンションのドアを開けると、シンと静まり返っているわが家。
変な時間に家に帰って来たので、お母さんがビックリするかと思えば、急な仕事が入って静岡へ行ってしまったらしい。
今日はメールではなく、テーブルの上にメモ書きと夜の食事用のカレーが用意されていて、本当に急だったんだと思った。いつもなら鍋ごと冷蔵庫に入ってるんだけど、今日は冷ます時間もなかったんだ。夏じゃなくて良かった、と胸を撫でおろす僕。
それにしても、泊りになるって・・・・
お母さんの仕事も大変なんだな?!冬なのに夏用の衣装を着て写真撮影をするから、しょっちゅ風邪をひいているんだ。僕には無理だと思った。きっとすぐに熱を出してしまいそう・・・・・・。
友田さんのお母さんにもらった花束をガラスの花瓶に生けようとして、リビングへ行ったとき、僕の携帯が鳴った。
- 誰だろう・・・電話なんてかけて来る人いないのに・・・
そっとポケットから取り出すと、画面に”友田さん”の名前が.....。
一瞬ドキッとした。でも、早く出ないと切れてしまったらいけないと思って、はい。と静かに答えた。
『あ、アユム?なに、今日浩二たちに会ったんだって?』
すごく自然に僕の名前を呼んでくれるから、嬉しくなった。
「は、い。こんにちは。そうなんです。拉致されたんです。」
僕は正直に、今朝の事を友田さんの耳に入れる。
浩二さんたちが話してくれたこと。僕の心配をしてくれて嬉しかった事。それから叔父さんの小金井さんに出会った事を・・・
『えっ!小金井くんにあったの?・・・やばいなぁ、触られたりしなかった?』
突然の質問に、叔父さんに触られるとか・・・有り得ない。と思ったけど、茶髪の人に聞いた”ゲイ”という言葉が頭をよぎって、納得した。
そこも心配してくれるのか.............。
「大丈夫ですよ?!とても優しそうな叔父さんですね?」
『や~、それは多分アユムにだから、だよ。小金井くんは結構怖い人だからね?』
「え、そうなんですか?そんな感じはしなかったけど・・・」
『あ、ところで、今日うちの母親に家まで連れていかれたんだってな?ごめんな?あのひと自己中だからさぁ。』
「いえ、お昼までご馳走になっちゃいました。ありがとうございました。」
言いながら、お辞儀までしてしまう僕だった。本当に電話で話すとか慣れなくて.....。
「そういえば、友田さんは今学校ですか?」
まだ早い時間なので聞いてみた。
『今日さぁ、試験日だから早かったんだよ。あと、バイトも無いし・・・』
「あぁ、そうだったんですか?!じゃあ試験勉強しないと、ですね?」
友田さんの声を聞いていたら、僕の胸がキュウンと痛くなってきて、すぐにでも顔を見たいと思ってしまった。バカみたいだな.........。
『アユム、もう家に居るんだろ?ひとり?』
そう聞かれてちょっとだけドキッとした。
「はい、今日はお母さんが仕事で静岡に行ったから、僕は一人でカレーを食べるんです。」
なんとなく口をついて出た言葉に、自分で恥ずかしくなった。なんだか甘えているみたいで.....。
『え、そうなの?・・・大丈夫か、一人って・・・』
やっぱり友田さんは、心配してくれる。
「大丈夫じゃ、ないです・・・一人で、なんて・・・寂し、くて・・・・」
益々調子に乗ってしまった僕は、完全に甘えん坊の子供みたいな事を言ってしまった。
ホント・・・・バカだと思われる・・・・・
『待ってて。今から俺、そっちへ行くから。ちゃんと泊まれる用意していくからさ。一緒にカレー食ってもいい?』
友田さんの言葉に、半分泣きそうになる。なんて優しいんだろう・・・
「は、い。待ってます・・・カレー温めておきますから・・・」
『うん、じゃあ1時間で行くからな?』
「は・・・・」
と、行ったところで、僕の返事を待たずに、友田さんの携帯は切れてしまった。
- どうしよう・・・すごく嬉しい。
ホントに今日は、なんて不思議な一日なんだろう -
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