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第51話
お母さんのベッドの中で鼻まで布団をかけ、じっと天井を見つめていたら、暗闇に目が慣れたのか部屋中の様子が見えてくる。
お母さんの部屋は殺風景な男の人の部屋みたいで、可愛い置物なんかは見当たらなかった。若くしてシングルマザーとなって、自分の楽しみを見つける時間なんてなかったんだろう。僕は、忙しく働くお母さんしか知らない。
僕が友田さんと出会えたことをとても喜んでいたけど、まさか息子が彼に恋しているなんて思ってもみないだろうな.......。
あの優しさが、僕の為だけにくれたものならどんなに嬉しいか。僕は、こんなにも友田さんを必要としているのに、友田さんにとっては、僕はブルースターの様な瞳を持つ少年で、興味があるのはこの瞳だけなんだ...........。
...........汚れてしまった僕に、その花はもったいないよね。
次の朝、僕はいつもと違って早い時間に家を出ていた。
友田さんの登校に合わせるために、混みあったバスと電車に揺られながら、懐かしい気持ちになる。
中学1年生の時は、こうしてもみくちゃにされながら学校へ通っていたんだ。そんなに昔の事じゃないのに.......。あの頃は多分地面ばかりを見ていたと思う。顔を上げて空を仰いだ事もなかった。
今日は、友田さんと一緒だから空を見上げて歩けるんだ。
僕一人なら、きっとうつむいたままだったろう.................。
「アユム、俺このまま学校行くから、ここで・・・・。またな、ごちそうさん」
駅に着くと、手を上げ乍ら友田さんが向かいの電車に乗り換えようと歩き出した。
「あ、・・・僕の方こそ・・・ありがとうございました。」
僕はニコリと微笑んで、軽く頭を下げた。
僕の視界から離れて行った友田さんは、向かいの電車に乗り込むと、いつも通りの笑顔を向けてくれた。大勢の人の背中の隙間から友田さんの顔を見つけると、過ぎ去る電車を見つめている。その間、なんども人の肩にぶつかってはぐらついてしまう僕は、立っているのが不思議なぐらい脱力感でいっぱいだった。
昨日しぼんだ風船は、もう空気を入れても膨らまない。
何処かにちいさな穴が空いていて、しゅうしゅうと息が漏れるように、僕の肺を締め付けた。「またな............か。」
- はぁぁ・・・こういう気持ちはなんていうんだろう・・・
この駅を出て、バスに乗り換えないといけないのに、僕の足は違う方向へと向かっている。昨日の朝、浩二さんたちに連れて行かれた喫茶店。
そこに何かがあるわけじゃないのに、自然と僕の躰は引き寄せられた。
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