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第52話

 爽やかなBGMが流れている喫茶店の中には、モーニング目当てのサラリーマンと、お年寄りの姿が目に付いた。 さすがに中学生は僕一人だ。みんな登校している最中だからね。 昨日といい、今日といい、僕はすっかり不良学生の仲間入り。 でも、強面の二人がいないだけ安心していられる。もちろん、こんな所でサボっているのが分ったら学校で問題になるんだろうけど.......。 奥の席で腰を降ろすとコーヒーを注文する。 待つ間、テーブルに肘をつき心地よい音楽に耳を傾けた。 交差した手の上に顎を乗せ、どこか遠くをぼんやりと見ていたが、ふと昨夜の事を思い出した。友田さんの触れた唇が、いつまでも熱を帯びていて、僕はそれを確かめるように自分の指でなぞってみたが、 「お待たせしました」 店員の声で我に返ると、指を離しあわててカップに手を伸ばす。 僕の顔をチラっと見ながら、何も言わず立ち去っていく店員と入れ替わりに、僕のテーブルへ来た人を見て驚いた。 「・・・サボリか?」 ニヤリと笑って僕に言ったのは、友田さんの叔父さんの”小金井”さんだった。 今日は、白いパーカーの上に皮のジャンパーを羽織り、顎までの髪は無造作に束ねられていた。歳がいくつなのか分からないけど、雰囲気はちょっとアブナイおじさんだ。 「サボリ・・・ですね、多分。」 僕が投げやりに言ったから変に感じたのか、小金井さんは隣に座ると僕の肩に手をかけて 「なんだよぅ・・・・昨日とちょっと雰囲気が違うじゃん・・・」 覗きこむ様に言ったけど、僕は俯いた。 違うも何も、僕は色々な事を知ってしまったんだ。友田さんといるとドキドキする訳も、あの日、僕があの人たちに何をされたのかも.........だからこそ友田さんが優しくしてくれた事も。 僕は勘違いをしていたんだ。僕の甘えは受け止めてもらえると......。 僕の身体を離し、いつも通りに接してくれるのが答えなんだろう。興味があるって言われて舞い上がってしまったけれど、”興味=好き”とは違うんだよね?! 「サボるんなら、俺の事務所に来るか?ここに居たら補導されるぞ?」 「・・・・・はい。」 後さきも考えず、半ばあきらめにも似た気持ちで答えると、コーヒーを飲み干した。 小金井さんが会計をしてくれて、僕は後をついて行く。 自分でも驚くほど警戒心が無かった。小金井さんは友田さんの叔父さんだから、きっとどこかで信頼していたんだ。見かけがアブナイおじさんでも、根は面倒見のいい優しい人だと思った。だから、事務所に入ってあんな事になるなんて思いもしなくて........。

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