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第53話 *
小金井さんが事務所にしていたのは、"有楽街"の中にあるゲームセンターの3階部分で、事務所と言うより住まいの様だった。
20畳ぐらいのリビングに、大人がゆったり寝られるほどの大きなソファーが置かれている。薄いベージュの皮張りで、ブランケットがそのまま置かれていたから、ここで昼寝でもしているんだろうと思った。
浩二さんが話していた様に、まだ若いのに自分の店を何軒か持っているなんて、凄い人だと思う。反面、その凄さを醸し出さないユルい感じって、なんなんだろう?
「もしかして、ここに住んでるんですか?」
ソファに座った僕はブランケットを持ち上げると聞いてみた。
「まぁね。本当は住居にしちゃいけないんだけどさ、オレ独りもんだし・・・たまに知り合いのトコ泊まりに行くけど、ほとんどはここで寝てるな。」
皮のジャンパーを脱ぐと、無造作にソファーの上へ投げながら言った。
僕の隣に座る小金井さんを見ると、横顔が友田さんと似ていてドキッとする。
髭が邪魔だけど、鼻のラインから顎にかけてシャープな感じはそっくりだ。
「なに?オレの顔になんかついてる?」
自分で頬を撫でながら聞いてくるから
「いいえ、謙さんに似ているなって・・・ちょっと思っただけです。」
そういうと、僕の視線は小金井さんから離れて、奥にあるついたての方に注がれた。
その先にはベッドが置かれていて、完全にここに住んでいるんじゃないかと思った。
僕の見る方を小金井さんも見て、顎に手を当てるとジョリジョリ音を出して髭を擦る。その動作が妙に気になるが、僕はまだ奥の方を眺めていた。
「ちょっと覗いてみる?奥のスペース・・・」
そういって僕の腕を掴んで立たせると、奥のベッドの方へと連れて行った。
「ぁ、・・・」
拒否する間もなく、僕はベッドの上にそのまま放り投げられて、ボスンツというスプリングの音が部屋に響くと、僕の身体もバウンドした。
沈むような羽根布団の感触が気持ちよくて、なぜだか僕はそのまま天井を仰いでいた。
「名前、なんて言ったっけ?」
「アユム・・・ササキ アユム です。」
「アユムは、謙の友達?それとも・・・コイビトか?」
「コイビト・・・の訳が無い。トモダチですよ。」
本当の事だった。トモダチ以上の気持ちを持っている僕と違って、友田さんはごく普通に接してくれる。ただ、僕の為に慰めのくちづけをくれたんだ。あれは、深い意味を持たない。
小金井さんは、ベッドに仰向けになる僕の横に腰を降ろすと、ゆっくり顔を近づけてきた。僕はなんの抵抗もしなかった。むしろ友田さんに似ている小金井さんの顔を間近に見られて嬉しいと思ったぐらい.......。
小金井さんは慣れた手つきで、僕のあごに手をかけると、少しだけ持ち上げて唇を重ねた。変な感じ。啄ばむような小さな接触はもどかしい。
僕の感情はどこへ行ってしまったんだろう。小金井さんと目が合ってもピクリともしない。初めての口づけは、あの教室での嫌な記憶。
その後の、友田さんの唇は柔らかくて暖かかったのに、ほんの一瞬で消えた。
小金井さんが徐々に体の位置をずらしながら、僕に覆いかぶさるようにして唇を重ねてくる。何度も付いては離れて、時々顎のラインを舐められると、ぞわっとした。
全身に鳥肌が立つような、身体の中心から電気が流れ出るような感覚。もじもじしている僕の手を取ると、小金井さんは自分のズボンの前に持っていく。
ビクッとなった。僕にも分かる体の反応が、小金井さんの手を伝わって僕にも反応を起こさせる。あの、パソコンの画面に映る裸体を想像してしまい、前に見た友田さんの裸まで蘇ってくる。自分の理性が飛んで行くようで怖かったけれど、僕は小金井さんに身をゆだねていた。
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