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第55話
「あ、 謙?! オレ・・・アユムくんとエッチしちゃった。ごめんな?!」
突然、携帯電話の向こうの人と話し始めて、僕はビックリする。
「謙」って、電話の向こうには友田さんがいるんだろうか・・・!!?
「ちょっ、と・・・小金井さ、んツ・・・!!!」
携帯電話をむしり取るように奪った僕は、声を確認しようと耳に当ててみたが、なんの音も聞こえなかった。そのうち「ピーーーーーッ」と電子音が鳴り、録音機能だったと分かる。
うな垂れた僕が、片手に持った携帯をそのままの姿勢で小金井さんの方へ放り投げると、胸元できれいにキャッチされた。
「ははは・・・留守電入れちゃった!!・・・楽しいね?!」
悪びれず、ほくそ笑む小金井さんを見て、前に友田さんが言っていた「小金井くんは怖いよ」と言う言葉を思い出す。
”怖い”というより、何を考えているか分からなくて、僕にとっては不気味な存在となった。
「楽しい?・・・冗談でしょ! ウソばっかり言ってどうするんですか?僕はあなたとエッチなんかしていません!!」
少々興奮気味に言ってしまったが、先ほどの行為を思い出す。
キスは、エッチの中に入るんだろうか、なんて本気で考える僕..........。
「あ、アイツ試験中だっけ? あーあ、テストにひびかなきゃいいけどなぁ?!」
心配なんだか楽しんでいるんだか分からない。本当に友田さんの叔父さんなんだろうか。
小金井さんは、ソファーの前で座り込む僕の頭に手を伸ばして、ポンポン と軽く叩くと、立ち上がってジャンパーを羽織った。
「タバコ買ってくるから、あと昼飯食ってけ。ハンバーガーでいいだろ?」
そう言い残すと、ドアを開けて部屋を出て行く。
あまりにも平然とした姿に、こちらが勝手に怒っているだけなのかと錯覚しそうになる。
取り残された僕は、熱が出たみたいに体中がぞわぞわして動く気にもなれなかった。
友田さんが、あの留守電を聞かなければいいのに・・・・
なんて思うだろう・・・朝、一緒に出掛けて学校へ行っているはずの僕が、叔父さんといるなんて.......。朝の爽やかな笑顔が目に浮かんでくると、自分が情けなくて涙がこぼれた。
前に、触られなかったか聞かれたのは、こういう意味だったのか?
自分の考えが甘すぎた事を痛感する。
友田さんに受け止めてもらえなかった気持ちは、空中分解して粉々になると、僕の身体から解き放たれた。誰かに拾ってほしい訳じゃないのに、僕は叔父さんの小金井さんに身を委ねようとしたんだ。完全に友田さんは僕をキライになるだろう。
きっと呆れて、もう僕には話しかけてくれないかもしれない。
「自業自得」
今まで考えた事も無い言葉が、僕の全身を取り巻いて、苦しくて辛くて取り返しのつかない事をしてしまったと思った。
興味どころか、軽蔑されてしまうじゃないか......................。
........たった3ヶ月ほどだったけど、僕の幸せな時間は、あっけなく終わってしまうような気がした。
ぅわあああああああぁっ!!!
両耳を手で塞ぐと、大きな声で叫んでみたが、その叫び声は誰にも聞こえはしない。
カウンセリングルームから見える景色を遠く眺めていた日々は、すごく昔の事みたいだった。
こんな所で、僕は何をしているんだろう.......................。
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