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第57話
寝ぼけているのかと思って、もう一度自分の目を擦る僕の前には、やっぱり小金井さんを睨みつける友田さんの姿があった。
掴みに来た手を簡単に振りほどくと、小金井さんはうっすらと笑みを浮かべている。
今度は胸ぐらを掴みにきた友田さんの手を受け止め、大きく身体を捻って床に投げ落とすと、床で組み伏せらた友田さんの口から「うわぁっ!!」と大きな声が上がる。
僕はビックリして飛び起き、「やめてください!!」と叫んで二人に近寄ったが、僕の顔を見た友田さんはハッとして、また小金井さんの方を睨みつけた。
「おぅ、お~ぅ!・・・なんだよ、その目は。ヤキモチか?」
この状況を楽しんでいるかのように、口元がニヤリと上がる。
「アユムに、なにしたんだ?!・・・アユムにツ!!・・・・・」
背中を押し付けられながら、言葉を出す友田さんは苦しそうで、僕は小金井さんの身体を引き剥がそうと腕を引っ張ってみたが、大人の力にはかなわなくて、自分の非力さを痛感した。
「お前、アユムくんとは友達なんだろ?いいじゃん、俺が何したって。」
小金井さんは上から体重をかけ、押しつぶすようにして言う。
「ふ、ざけんなツ!!・・・アユムは、まだ中学生なんだぞ!変な事すんなツ!!俺のアユムを傷つけたら許さねぇツ!!クソツツ!!」
ふっ、・・は、は、はっ・・・・
友田さんの言葉を聞いて、小金井さんは噴き出す様に笑うと力を緩めた。その瞬間、身体をずらして足で蹴るような真似をした友田さんは、まだ戦う姿勢のまま。
「あ~あ、ばからしい・・・・とんだ茶番劇だな。俺も暇人かよ・・・」
友田さんの足を掴むと、手で押しのけ乍ら立ち上がった小金井さんが、自分の服をポンポンと手ではらう。それから、ソファーに置かれたジャンパーを掴むと、僕たちには見向きもしないでドアの方に向かい事務所を出て行ってしまった。
呆気に取られてしまった僕だけど、床に座り込んだままの友田さんの元へ駆け寄ると、背中を必至でさすった。
何をしていいのか分からなくて、とにかく体を痛めていないか心配だったから.......。
「アユムツ!!」
僕をギュッと抱きしめた友田さんが、名前を呼ぶと一層強い力を込めるから、息をするのも苦しくなった。僕は、そのまま友田さんの上に倒れ込んでしまう。
二人で床に寝転がり、そのまま抱きしめられて、どうしていいのか分からない。
友田さんの体温を感じながら、申し訳ない様な嬉しいような変な気持ちになった。
「俺の・・・ものになって!・・・もう、誰にも渡したくない。俺だけのアユムになって!」
振り絞る様な声で苦しそうに言う友田さんに、どきどきしてしまうと顔を上げられなくなる。
じっと顔を埋めたまま、友田さんの心臓の鼓動を感じると、ドクンドクンと大きく打っていて、僕と同じようにドキドキしているんだと思ったら少しだけ安心した。
「・・・・・なりたい、です。友田さんだけの僕、に・・・・」
精一杯の声を出して、僕は友田さんの身体にギュっと抱きついた。
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