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第58話
友田さんの胸に顔を埋めたまま、布ごしに心臓の音を聴いていた僕は、床が硬い事も忘れてしまっていた。僕を支えていた腕をそっと抜き取ると、もう一度体勢を変えて抱きしめてくる。
「あっ、ごめんなさい。重かったですよね?」
身体を浮かせながら言う僕に
「大丈夫、もう少しだけこうしていたい。」
「………」
なんだか恥ずかしい。
きっと僕の心臓の音も伝わっているんだろうな。早鐘のようではなくなったけれど、自分でも鼓動の大きさが分かるんだ。
何度かぎゅってされた事はあったけど、こんな風に身体の熱を確かめ合う事はなかったから。それに、昨日と違って、離される事はない。僕は、友田さんのものなんだから。
「…あの、さ。」
伺う様に聞いてくるから、次の言葉を待つ。
「今から、俺ン家に来ないか?」
この言葉を口にした友田さんの身体は、僕にも分かる程緊張していた。心臓の鼓動はバクバクと音が聞こえる程で。
「…はい、行きます。」
僕も緊張しながら答えた。
どちらからともなく身体を離すと、服のホコリをはたいて荷物を手にした。
事務所の鍵もそのままに、二人で階段を降りると、目の前に広がるいつも通りの歓楽街を歩いて行く。何か言いたげな友田さんだったけど、僕はただ付いていくしかなくて。
「ちょっと、ここで待ってて。」
薬局の前で突然言われ、はいと頷き入口で待つ。急にどうしたんだろう。
僕は待つ間、お母さんにメールを送っておいた。ひょっとしたら友田さんと晩ごはんを食べるかもしれないから。
しばらくして、出て来た友田さんは、買い物袋をそのまま自分のかばんに押し込める。
その様子が慌てていたから気になった。
商店街に入って行くと、前には見えた店先の花が目に入って来ない。近づいて行くと、シャッターが閉まったままだったから不思議に思い聞いてみた。
「今日は、お店休みなんですか?」
「う、ん。........母親は友達と温泉旅行で、いないんだ。」
「あ・・・そうですか・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
なんとなく二人の間に微妙な空気が流れる。
2階の事務所兼リビングへは行かずに、直接3階の部屋へ案内されると、僕の緊張はピークに達した様で、さすがに震えてきた。
友田さんは怖くないけれど、不安と嬉しさが入り混じった僕の頭が混乱して、心臓の音が聞こえてくると、自分の胸を押さえ鎮めようとした。
そんな突っ立ったままの僕を静かに引き寄せると、友田さんは背中を包み込むように抱き締めてきた。
顔が近い。目の前に友田さんの唇が来るが、ゆっくり開かれるとおでこに当てられたので、僕は少し拍子抜けしてしまう。
でも、すぐさまそれは下に降りてきて、僕の唇に重ねられた。僕の身長に合わせるように屈んで、のけ反る身体を支えた腕が熱を帯びてくると、ゆっくりと動き出した。
服の上から躰の線をなぞる様に、腰から上へ這い上がり、今度は肩甲骨の間をゆっくりと降りて行く。ふさがれた唇の端から息が漏れそうになるのをなんとか堪えた。
うっすらと目が開くと、友田さんの瞳も僕を見ていて、なんだかそれだけで興奮してしまう。じっと互いの視線を絡めたまま、唇は優しく触れあっている。
..................体がとろけそうだ......................
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