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第63話
初めて友田さんと結ばれてから2週間が経ち、僕は時々学校の帰りにバイト先のカフェへ立ち寄るようになった。
耳に入って来るカップルの話題が僕には新鮮で、自分の立場はどちら側なんだろうと思ったりする。女の子の様に、カレ(友田さん)と会うのを待ちわびているようで。
「アユム、今日はお母さん遅いの?」
僕の前に”海老のクリーム煮込みパスタ”を置くと、微笑みながら友田さんが聞いてくる。
最近は、お母さんの帰りが遅くなる日に、ここで夕食を済ませていたから。
「うん、また撮影が延びたんだって!最近天候の悪い日が多かったから・・・」
フォークの先にパスタをクルクルと巻き付けながら僕が答えると、
「ああ、外での撮影だとそう言う事あるだろうな。今撮ってるのは春とか夏用なんだろ?」
「うん、そうみたい。この寒いのに大変だよね!しょっちゅう風邪ひいてるよ。」
「そうか・・・移されんなよ?!」
そう言って、また自分の仕事に戻る友田さんを見て、やっぱり優しいな、とニヤケてしまう僕。
最近は、言葉使いが敬語ではなくなった。
前は「はい」と返事していたのに・・・・ふふ・・・
濃厚な海老の香りを楽しみながら食べ終わると、ラズベリーリーフのハーブティーをカップに注ぐ。これは友田さんが進めてくれて、鉄分、カルシウム、ミネラルが豊富とか。
僕はかなりの偏食なので、多分心配してくれているんだろう。そういう所も感謝している。
ハーブティーを飲みながらも視線は友田さんに注いでいて、白シャツに黒のエプロン姿がステキだなぁ、なんて目で追ったりしている。
時々、同じバイト仲間の女の子に話しかけられて、困った顔の友田さんは、カワイイというか・・・本当に女の子が苦手なんだな、と思った。
そろそろ僕も帰ろうかと思い、立ち上がって椅子に掛けていたコートを羽織る。
伝票を手に持って会計レジに行くと、友田さんが来てくれて僕のコートの襟を直してくれた。その時、少しだけ襟足に指が触れたから、僕がビクツとなるが、友田さんは気にするでもなく普通の表情をしていた。
自分だけ過敏に反応している事が恥ずかしくなる。ちょっと触れられただけで、脳ミソが解けそうになるって・・・・・変・・・
「じゃあ、ごちそうさま。おやすみなさい」
「・・・気をつけて帰れよ?!・・・」
うん、と頷く僕を出口まで誘導すると、背中をトントンとしてくるから、後ろ髪を引かれる思いでドアを開けた僕は静かに手を振った。
本当は、お母さんが遅いとき、僕の家へ来てもらいたいと思っている。
一度肌を重ねると、隣に感じられないのが寂しくて・・・・
別にセックスをしたい訳じゃないんだけど、手を繋いでいるだけで心が温かくなるからそれを望んでしまうんだ。
有楽街はこれから益々賑わう時間で、忘年会をするサラリーマンの姿も多くなってきた。
通りですれ違う人と目が合うと、ハッとした風に見られるけど、それももう慣れてしまって、前ほど嫌ではなくなった。
自分の意志で、友田さんに会うためにこの道を歩く。
だから、すれ違う人の事なんてどうでもいい。僕は目的地へ到着したいんだから。
そう思ったら、昔のおどおどしていた自分が何だったんだろうと思えてきた。
人の目ばかりを気にして、自分の意志は持っていなかったのかも・・・・
家に着く頃には、完全に身体が冷え切っていて、もうすぐ冬休みが来るんだと実感する。前は、もっと早い時間に帰宅していたから、冬の寒さもここまでは感じなかった。
暗い夜道を一人で歩くと、心も体も倍ほど寒く感じてしまった。
- - - トゥルルル
シンと静かな部屋の中で、テーブルに置いた僕の携帯が鳴った。
入浴を済ませ、濡れた頭を拭きながら手にすると、お母さんから。
「はい、僕。」
『アユ、ごめん。今日泊まりになっちゃったの。・・・』
「あ、そうなんだ・・・うん、いいよ。もうご飯も食べちゃったし。」
『謙さんのトコで?』
「うん、今日はパスタにした。海老のクリーム煮だったよ。あと、ベリーのハーブティーを入れてくれて・・・美味しかった。」
『そう!良かった。・・・ホントごめんね!じゃあ明日。』
最近、僕のお母さんは友田さんの名前が出ると嬉しそうだった。もう何年も友人の話なんか聞いたことが無いんだから.....。きっと、日下部くん以来の友達の話。
まあ、友田さんは友達ではなくなったんだけどね。でも、これはまだお母さんには内緒だ。言えばきっと動揺してしまうだろう。
仕事がらゲイの人とかもいて、一般の人よりは理解があると思う。
でも、自分の息子の場合は・・・・・分からないな・・・・
自分の部屋に戻ると、ヒンヤリしたベッドの中に潜り込んで、もうすぐ来る冬休みの事を考える。友田さんの予定には、毎日バイトが入っているんだろうな・・・・なんて。
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