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第64話
終業式の間、僕たちクラスに行けない生徒たちの居場所になるのは、カウンセリングルームか、他の幾つかある自習室。
高校生は、どこか別の場所にいるんだろうか、ここには中学生のみが、集まっていた。
普段は、一応同学年ごとにひとクラスになるんだけど、今日は特別1年から3年生まで一緒の教室に集まった。
僕らの様な生徒の中にも、人懐こい性格の子もいて、一学年下に僕に話しかけてくる子がいた。
「…で、有沢先生が負けちゃって.…柔道部の先輩大喜びだったんですよ。」
「へぇ、先生より強い生徒なんているんだね?!だったら、すぐに大会とかも出られるんじゃない?」
「そう!うちの学校って勉強ばかりしているイメージ強いから、他校の生徒もびっくりですよ、きっと!」
そうだね。と言って笑う僕の横で、日下部くんは頬杖をついて話を聞いていた。
僕らは他の生徒の詮索はしない方だけど、彼の様な屈託のない子が、どうしてクラスから離れてしまったのか、凄く不思議に思った。友達も多そうなのに………。
中学2年生の割には大柄で、175センチ位。
体格も良くて、それこそ柔道部に入ったらいいのに、と思うぐらい逞しかった。
ここに来るようになったのは、僕が引きこもっていた試験明けからみたいで。
「桃里(トウリ)くんてさぁ、前に柔道の県大会に出てなかった?」
そう言うのは、僕の後ろに座った北村くん。
「え?ホントなの?」
僕と日下部くんが驚きながら桃里くんを見ると、カレは黙ってしまった。
一瞬で、僕らの間には緊張した空気が流れて、聞いてはいけない事だったのだと悟る。
「北村くん、今はいいんじゃない?その話は・・・・。もうすぐ先生も来るからさ、桃里くんも席についてなよ。」
僕が言うと、カレは後ろの方に移動して行く。桃里くんの周りには他の2年生も近寄らなかったので、僕も日下部くんも顔を見合わせてしまった。
しばらくすると先生がやってきて、冬休み中の課題とか、ほかに色々と注意事項を説明して、やっと僕たちは開放された。毎回同じことを言われている。
まあ、年末年始の前にクリスマスもあったりして、開放的な気持ちになる事は否めない。
行き過ぎた事をする生徒もいるだろうし・・・・
そう思ったけれど、僕は自分の事を思い返したら恥ずかしくなった。
僕と友田さんのした事は・・・・・・
先生が教室から出て行くと、僕らも帰る仕度を始める。
「今日は、また寄っていくの?」
カフェに寄っている事を知っている日下部くんが聞いてきたが、ううん、と首を振った。
今日は昼までだし、友田さんだってバイトの始まる時間まではまだ相当ある。
夕方まで時間をつぶすのも、と思ったから帰ろうと思った。
いつも通りにバス停まで日下部くんと歩いていると、後ろから桃里くんがついてきた。
「僕も駅まで一緒に帰っていいですか?」
大きな身体を縮めて言うから可愛くて、「いいよ!」とふたりで声を揃えた。
僕と日下部くんのいつもの帰り道に、大きな桃里くんが一人加わっただけ。
それなのに、ものすごく新鮮な気がして、僕は少しだけくすぐったい気持ちになった。
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