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第68話

 ……なんだか、いつもの友田さんと違う。 具体的にどこが、と言われても困るが、瞳の奥に怒りを感じた。 「バイトは終わったんだ。今日、早番に変えられちゃったから……。だから、書店に寄ってたんだけど……。」 「僕は参考書を探しに……。」 「友達?………いつもの、日下部くんは?」 友田さんが、桃里くんに目をやりながら聞いてきたから「今日は二人で………。」と、僕も桃里くんの顔を見ながら言った。 「どうも……。オレ、桃里(トウリ)って言います。前に駅のホームで会いましたっけ?」 桃里くんは覚えていたようで、友田さんの顔を見つめると言う。 「何年生?」 桃里くんの質問には答えずに、友田さんが聞いていて、僕は違和感を覚えた。なぜなら、視線を向けたままニコリともしていないから…。 いつもはあんなに優しい眼差しを向ける人なのに。 「2年です。」 桃里くんも、視線を逸らさず答えていて、僕ひとりが間に挟まれてソワソワしている。 「いっこ上か………。」 そう言われ、僕は慌てて 「カレは中学生だから!……僕の下だからね!!」 何故か必死になり、二人の間でオタオタしながら説明した。 「……ぇ?………中学生………?」 完全に高校生だと思っていたみたいで、友田さんの声は小さくなった。きっと、僕がひどいめにあった事が、友田さんの不安を助長させているんだろう。でも、僕を守ってくれようとして、周りの人を怖い目で見るのはちょっと困る。 「あの、僕たち帰ろうと思って……」 この状況から逃れようと、僕の足が動いた途端、友田さんに肘を掴まれて動けなくなった。 「ぇ?ちょっと……」 焦る僕に 「一緒に帰ろ!俺アユムのお母さんに頼まれてんだ。」 驚いた。いつの間に……… 「アユから話しがあると思うけどって言ってた。どうせ今日は早く上がったから、アユムに連絡しようと思ってたんだ。」 「あー、でも、急には……」 「なんで?………ダメ?」 そんな風に聞かれると、身体の力が抜ける。それに、桃里くんもいるのに、どういう態度を取ったらいいのか……。 「なにかあったんですか?佐々木先輩のお母さん。」 「なにもないよ。ちょっと仕事で海外に行っただけ。」 桃里くんに細かい説明はいらないと思ったけれど、友田さんにも本当は話しておくつもりだったから、今言ってしまった。 - - - それがいけなかったのか - - -  「アユム、もう帰るぞ!!えっと、桃里くんだっけ、じゃあ気をつけて帰れよ!?」 そういうなり、僕の腕を掴んですたすたと歩き始めた。もちろん桃里くんは唖然とした顔で僕らを見る。同じ電車なのに、置いてけぼりになるんだから..............。 「と、もだ....っさん!!.......なんか.......早いっ!.........」 僕の言葉も無視して駅まで早歩きで行くと、切符を買ってホームへ走る。 もう、電車が入ってきていたから、僕らは全速力で階段を駆け下りた。 ぎりぎりドアが締まる前に身体を押し込んで、肩で息をしながら端の方へ寄ったが、僕の背中を支えるように、友田さんの手が伸びてくると、冷たい手すりを掴んで僕の顔を覗きこむ。じっと見られるのはなかなか慣れなくて、少しだけ鼓動が早くなった。 クリスマス前の賑わう電車の中で、僕たちを気に留める人もいないだろうけど、友田さんの顔がすごく近い。僕は、睫毛が小刻みに震えるのが自分で分かるぐらい動揺していた。 なのに、友田さんはじっと僕の瞳の色を確かめるように見つめてくる。 どうして?........................なにか言いたいのかな..............?!

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