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第72話

 その晩、僕はリビングのテーブルを引き上げてコタツを出してきた。 お正月はこのスタイル。ソファーにコタツっておかしいけど、やっぱり暖かくて気持ちいいんだよね。足の先だけ入れてもいいし、すっぽり埋もれてもいい。 一人でコタツに入って学校の課題を始める。 もう少ししたら晩御飯を何にするか考えようと思いながら、気付いたらすっかり夕暮れで......。 - あぁ・・・居眠りしちゃったんだ・・・・ 一人で呟くとおかしくなった。コタツを出した途端、早速の居眠りなんて.....。 まあ、これが気持ちいいんだけどね?! 立ち上がると、テーブルの上に置きっぱなしの携帯が点滅しているのに気付く。 メールだと思って開いてみたら、またまた桃里くんで。 ”今、佐々木先輩の家の近くなんですけど、2丁目のバス停にいます。渡したいものあるので来てくれるまで待っています。” - これは・・・・・ 時間は10分ぐらい前になっていて、さすがに行くまで待たせるのはかわいそうだと思った僕は、電話を入れる。電話はすごく苦手。顔の見えない相手に、何を話していいのか分からない。 「あ、桃里くん?僕・・・佐々木です。」 「あ、はい。わかってます。名前出るから・・・えっと、ゴメンナサイ。勝手な事して。」 電話の向こうで、すごく頭を下げているのが目に浮かんだ。 「や、いいんだ、けど・・・」 「あの、バス停から5~6分て言ってましたよね?5階建てのマンションってこれかなぁ。グリーンヒルズって・・・」 「え?もうここまで来たの?」 「はい、すぐわかりましたよ。ボクの親戚がこの近くに住んでるんで。何階ですか?」 「え?・・・あ、っと・・・さ、3階。ていうか、僕が降りてくから待ってて。」 僕は焦ってしまった。桃里くんはすごい勢いで僕に接近してくる。 何か渡したいものって、わざわざ自宅を訪ねて渡したいものなんて.......。 慌ててジャンパーを羽織ると玄関から飛び出すが、目の前に桃里くんがいてビックリした。 「あ!!!っと、ゴメン・・・・」 「や、・・・ボクの方こそすみません。押しかけちゃって・・・」 しばし玄関先でのやり取りをするが、さすがに風も強いし寒くて、中へ入ってもらった。 「お邪魔します。」 「どうぞ・・・」 桃里くんは部屋の中をキョロキョロ見ていたが、僕に見られているのに気付くと、テーブルに持ってきた紙袋を置いて、中身を取り出した。 大きめのタッパーのような箱に入っていたのは、ミートローフ。 色とりどりのサラダとえびフライなんかも入っている。 「あの・・・これ、は?」 僕が遠慮がちに聞くと、一通りテーブルに並べた桃里くんが 「母親が、男の子一人じゃ食べるもの大変だろうからって。本当は家で食べてもらいたかったんですけど、佐々木先輩遠慮するから・・・・」 「あーーー、なんだか余計に世話をかけてしまって・・・ゴメン。」 僕が申し訳なくて、頭を下げると 「いや、昨日お母さんが海外って言ってたし、ボクのおせっかいですから。あ、うちの母親も、ですけどね?!」 ははは、と笑いながら話してくれるけど、僕は嬉しかった。 こんな僕の事を気にかけてくれる桃里くんと、カレのお母さんに本当に感謝した。 今まで、自分以外の人に対しては、かなり距離を置いていたし、友田さんにしろ桃里くんにしろ、人に対してこんな風に接する事が出来るという事が僕にはとても羨ましい。 「ありがとう。本当にありがとう・・・桃里くんのお母さんにお礼を言わなくちゃ。」 そういうと、ニッコリ笑った桃里くんが 「いいんです。ボクもここで一緒に頂きますから。」 そう言って、着てきた上着を脱いだから、僕は唖然として口が開いてしまった。

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