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第73話
固まる僕をよそに、桃里くんはテーブルへ料理の入った入れ物を並べていく。
「お皿とか出してもらっていいですか?」
「…う、ん。」
圧倒されて、僕は言われる通りにした。
「日下部先輩とかは来ないんですか?」
「…う、ん。…来たことないよ。 帰りに二人で何処かへ寄ったりはするけども……。」
「へぇ、そうなんですか。いつも二人で居るから、もっと仲がいいのかと思ってました。」
そう言いながらも、お皿に盛り付けるのが上手くて、体育会系みたいでも繊細な色彩感覚を持っているんだな、と感心した。
「日下部くんは、僕に気を使わないでいてくれて楽なんだ。あんまり干渉してこないから。」
桃里くんの言葉で、僕が冷蔵庫から飲み物を出しながら言うと
「あの人は?」
それが、友田さんの事を指しているのが分かって、少しだけ恥ずかしくなった。
なんて説明したらいいのか……。
友達っていうのも変かな?
「えっと………。」
「まあ、いいですけどね。」
僕の返事を待たずに、その話題は終わってしまい、桃里くんはサラダを取り分けてくれた。
「ありがとう」
「いいえ。」
僕がお礼を言うとニコリと笑う。
その笑顔を向けられると、なんだかくすぐったい。大きな身体に似合わず、子どもっぽい顔立ちで、僕が言うのもおかしいけれど、可愛いかった。
「凄いごちそう……こういうのクリスマスっぽいね。料理が上手なお母さんて、羨ましいよ。」
ミートローフなんて、いつ以来か忘れるほど前に食べたきりで、僕はパクパクと口に入れてほおばった。
「そういって貰えると、母親も喜びます。先輩のお母さんは、いつ帰ってくるんですか?また、何か持って来ますけど。」
「あっ、いや、…ごめん。それはもう……。悪いし、直ぐ戻ってくるから心配しないでいいよ。」
焦った。
誉めたつもりが、おねだりしたみたいに聞こえたんだろうか、 流石にこれ以上は……。
「桃里くんちは、みんな体格がいい人ばかり?沢山食べそうだもんね。」
なんとなく、そんな気がして聞いてみたけど、こういう言い方されて気を悪くしないかな……?
「うちは、親父が大柄で弟は今のところ標準かな。母親は小柄な人ですよ。」
「ああ、そうなんだ。」
普通に返事が戻ってきてホッとする。
こういう会話も、なんだか久しぶりだ。
日下部くんとは、必要最低限の事しか話さないし、趣味の話しとかも僕にはしてこない。多分、僕が興味を持っていないのを知っているからだと思うけど……。
友田さんは、…………そう言えば、友田さんとは花とかハーブの話しばかりのような気がする。
友田さんの叔父さんが、小金井さんという事も最近まで知らなかったし。
……お父さんて………
僕は、自分が聞かれて困る事は、人にも聞かないでいたから、自然と家族の話題から遠ざかっていた。
今気づいたけど、僕ってすごく小さな世界で生きていたんだな・・・・・。
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