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第77話
琴の音が流れる店内は、お昼時という事もあって色々な人で賑わっている。
割烹料理といっても昼は定食があって、僕は握り寿司と揚げ出し豆腐のセットを注文した。
小さな小鉢には、色とりどりの根菜の煮つけが盛られていて、ほんの一口ずついろんな種類を食べられるので、お腹が満たされるというよりは、目で見て心が満たされる感じだ。
「おいしいー。僕こういうの食べた事ない・・・お刺身とか、たまーにお母さんが買ってくるけど、ちょっと水っぽいし。」
僕が友田さんにいうと、こちらを見て笑う。
「はは、アユムのお母さんは忙しいからな。外食とかしなかったの?」
「うん、僕が.................あまり人前に出たくなくて。だから........。」
僕は、お母さんと一緒の時でも、周りの人に異質なものを見るような目を向けられている気がして落ち着けなかった。
買い物に行く時でも、下ばかりを向いていたんだ。
「アユムが気にするのは分かるけど、みんなが見るのはアユムが綺麗な子だからだよ?だからつい見ちゃうんだ。花だって綺麗だからみんな見たいし、欲しいと思うだろ?アユムは堂々としていればいいんだよ。」
友田さんは優しい目で言ってくれる。
また、僕を綺麗だという。
「綺麗なんて女の人に言う言葉でしょ?!僕は男ですから...........別に嬉しくはないんだけど。でも、まあ.......今は前ほど気にならなくなりました。」
「そうだよ、気にすんな。アユムはアユムなんだからな?!」
「は、い・・・。」
なんだか照れるけど、友田さんの言葉は僕の心に浸みこんだ。
しっかりご飯を頬張りながらも、嬉しくて口元がニヤケてしまう。
「ごちそうさまでした。」
「うん。」
友田さんのバイト代が出たという事で、僕はお昼をご馳走になった。
こういう時、なんだか頼もしいと感じる。一歳しか違わないのに、友田さんが大人に思えて......。
二人でぶらぶらと歩きながら、ショーウィンドーを眺めては洋服をチェックした。
今までは制服で十分だったので、普段着なんか着て行くところもなかったし、気にしなかった僕。
それでも、今日みたいにデートする時は一応気にした方がいいのかも、と思ったりして。
「何かおそろいのモノとか、買う?」
「え?」
ふいに友田さんが言ってくる。
- おそろい ?
「あんまり高いモノは無理だけど、アユムとおそろいの、持っていたいな・・・って。」
友田さんは言いながら、自分の鼻の頭を擦った。
照れているのがよく分かって、僕まで顔が熱くなる。
「いいんですか?」
「うん。できたら身に着けるものがいいかな。それ見てアユムの事思い出すからさ。」
- ふふふ・・・・・友田さん、顔がすっごく赤い。自分で気づいてるかな?
僕は心の中で、飛び上がるほど喜んだけど、恥ずかしいから俯いてしまった。
限られた時間の中で、僕らはお店を回ると、色違いのマフラーを選んだ。
表側は無地なのに、裏側にワンポイントの絵柄が入っていて、二人して選んだのがカモの絵柄。僕はえんじ色で、友田さんは濃紺。表向きは違う色でもワンポイントが同じ”カモ”
で、こんな些細な”同じ”という事が嬉しいような恥ずかしい様な・・・・。
友田さんのバイトの時間が迫り、なんとなく気ぜわしくソワソワしてしまうが、携帯の時間をみてはちょっと寂しくなった。
「アユム、ちょっと来て・・・」
そういうと、トイレに引っ張っていかれ、誰もいないのを確かめると個室に二人で入る。
僕の目を見つめると、友田さんの顔が近づいた。
鼻の頭をチョンとつけると、すぐに唇に触れる。そっとくちづけてから、今度は唇の間に友田さんの舌が入り込んで、僕の舌と絡まると強く吸われた。
背中に電気が走るみたいになって、しっかり友田さんの服を掴むと、頭がぼーっとなるまでキスを交わしてしまう。
薄れゆく自制心と戦いながら、ここが僕の家なら良かったのに、と思う。
ほんの僅かに触れた皮膚の感触が、もっともっと、とその先を求めてしまって。
「ぅあっ、・・・ダメ」
吸っていた唇を離すと、友田さんは小さく言葉を発した。
僕は、半開きの口で何かを求めるようにしていたが、友田さんの細長い指がそっと触れ、僕の唇に蓋をする。
「これ以上したら、俺、勃っちゃう。やめとこ?!」
言われて初めて、自分の下半身が少しだけ反応しているのを感じたので
「う、ん・・・そうだね?!」
小さな声でそう答えた。
耳を澄ませて、人気のないのを確かめると、二人で個室を出る。
なんとなく手を洗って、鏡に映る互いの顔を見つめ合ったが、やっぱり高揚しているのか、目がトロンとなっていて少し恥ずかしい。
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