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第85話
鼻先に何かが触れて、僕が目を覚ますと、そこにあったのは友田さんの顔だった。
「おはよー、起きられる?」
爽やかな笑顔で、着替えを済ませた友田さんが、ベッドに横たわる僕の鼻をつまみながら言う。その瞳を見たら、照れくさくなって、僕は布団にもぐり込んだ。
「あ…こら、起きろって!」
布団を引き剥がそうとするから、僕も抵抗してギュっと掴んでいたが、力が強すぎてあっけなく剥されてしまう。さすが友田さん・・・僕を抱えられるんだもんね!?
「降参です。」
「素直でよろしい。…今朝は、俺の特製オムレツを食べさせてやるから!」
僕の言葉に気を良くしたのか、少し自慢気に鼻を膨らませて言った。
「ウワー、僕オムレツ大好きなんだよね。特製って?」
聞きながら、身体を起こしてベッドから出た。
「まあ、食べたら分かるから、先に顔だけ洗ってこいよ。」
「うん!」
- 楽しい。凄く、凄く幸せ……。
洗面所で蛇口をひねると、勢いよく水を出す。
鏡の中の僕の顔は、泣いたせいで少しだけ瞼が腫れていた。冷たい水を掛け、パンパンっと頬を叩いて気合いを入れると、なんだかシャンとしたような気になる。
ダイニングテーブルの上には ”特製オムレツ” が乗っていて、僕の好きなフルーツサラダも用意されていた。
「いつも思うんだけど、友田さんて家でも料理してるの?手際がいいし・・・」
「うん、まあな。花屋っていっても、ウェディングブーケやショーウィンドーに飾る花をアレンジしに行ったりするから、俺が帰って来るまでに家にいない事も多くてさ。少5から自分で簡単なの作ってたな。」
「へ、え・・・」
感心しながらも、フワフワのオムレツをフォークですくう。と、中から溶けたチーズがタラーッと伸びて、その香りと味が僕の口の中に広がった。
「おいし~い! チーズがトロットロしてて、香りが鼻から抜けるね?!」
「だろ?あと、もうちょい、中見てごらんよ。」
そう言われて、またフォークを刺してみる。
「あっ、・・・ジャガイモとベーコン?」
中からは小さなサイコロ型のジャガイモと、ベーコンの炒めたものが出てきた。
「先にジャガイモとベーコン炒めといて、それにチーズ乗せて卵でとじたんだ。」
友田さんの顔が、一気にぱぁっと華やいだ気がする。やっぱり料理が好きなんだな・・・
「すごくおいしい。僕こういうの初めて食べたよ。....また作ってくれる?」
ちょっとだけ甘えてみたくて首を傾げて言うと、いいよ、と僕の頭をわしゃわしゃしながら答えてくれる。
朝のひと時、僕と友田さんだけの空間は、ほんのり甘くて暖かい。
外は真冬の寒さでも、僕らの心は温かく満たされていた。
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