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第86話

 楽しいときは、あっという間に過ぎて行き、二人でビデオを見たり抱き合ったりしていたけれど、夜になると僕の食事を作ってくれた友田さんは、自宅へと戻って行った。 誰もいなくなった家の中で、ポツンとひとり。 テレビを点けてみたけど、寂しさは拭えなかった。 画面の中では笑い声がするのに、此処にいる僕はちっとも笑えない。 お母さんからはメールが来たけれど、特に変わり映えしない「謙さんにご飯作ってもらった?美味しかった?」と、僕の食事の心配ばかり。 僕に内緒で友田さんにお願いしていたらしく、どれだけ僕を子供扱いするんだろうと思ったけど、今までの僕の性格が招いた事だから仕方がない。 コタツから出た僕は、携帯を取り出すとメールをした。 相手はもちろん友田さん。ほんの2時間ほどしか経っていないのに、顔が見えないと不安になる。桃里くんの事は言わなかったけど、友田さんも、誰が僕を傷つけたのか聞いてこなかった。 きっと、聞けばまた僕が怯えると思ったのか・・・・・ そういう所が優しすぎるぐらいなんだ。もっと叱ったり、情けないって怒ったりしてもいいのに........。 僕はきっと甘やかされている。お母さんも、だけど、友田さんはもっともっと僕を甘やかす。だから自分で自分を戒めないといけない。 ・・・もっとしっかりしなくっちゃ。 今まで僕は、追い風に逆らわない様に背を向けて歩いていた。 強い風が自分の顔に当たらない様に、人の視線を浴びない様に、僕への好奇心を避けるようにしていたんだ。 いつになったら、僕が風上に顔を向ける日が来るんだろう・・・ これは友田さんにも、お母さんにもできない事で、自分の力でしなければならない。 前よりは気にならなくなったけど、それでもクラスへ行く自信はまだ持てない......。 ” 昨日と今日、友田さんがいてくれて良かった。いつも感謝しています。これからはあんまり甘えない様に頑張るね!” メールを送ると、すぐに返信が。 ” 頑張らなくていいよ。俺だけに甘えてほしいから!”   だって。 周りに人がいなくて良かった。僕の顔はかなり目尻が下がっていると思う。 もう........ 本当に.......... だから大好きになっちゃうんだよぉ~。 その晩も、穏やかな気持ちのままベッドに潜り込むと、僕は深い深い眠りについた。

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