90 / 128
第90話
カーテンの隙間から朝陽が差し込むと、僕の意識も覚醒し始めた。
昨夜は、友田さんの香りが残る布団に包まれていたから、少し落ちつけたんだと思う。
ゆっくり布団から這い出ると、僕は立ち上がってカーテンを開ける。
- そうだ、友田さんのトコ行こう ・・・
漠然と思いついた僕は、大きなバッグを取り出し、自分の着替えを詰め込んだ。
部屋を出たけど、まだ二人は眠っているらしい。
シン・とするリビングを抜け、洗面所に行くと、さっと顔を洗って歯ブラシセットを詰め込んだ。
生まれて初めて、お母さんに何も言わず、家を出る。
ただ、友田さんの迷惑にはなってしまうかもしれないけど・・・・
- - - - -
年の瀬の電車は、やはり混んでいて、僕はまた人に押しつぶされそうになった。
なんとか三田駅に着くと、商店街を目指したが、丁度店の開店時間なのか、シャッターを開ける店の人と目が合う。
「おはようございます」と言われたので
「あ・・おは、ようございます・・・」と返したが、ドキドキする自分がおかしくて、普通に挨拶を交わすのって、こういうんだっけ・・・なんて感心していた。
それほどまでに、僕は違う世界に居たらしい。
花屋の店先は、すでに色とりどりの花が置かれていて、奥で友田さんのお母さんの姿が見えた。
「あ、の・・・おはようございます。」
僕が頭を下げながら、店内に入って行くと、
「あら、佐々木くん!おはよう。・・・・早いわね。」
ごく自然に挨拶されて、ちょっと拍子抜け。
「は、い。あの、友田さ、・・謙さんいますか?」
「ええ、3階の部屋に居るから、上がってちょうだいな。寝てたら叩き起こしてやって!!」
あっけらかんとそう言われ、僕は「はい。」とだけ言って3階に上って行った。
よその家に勝手に上って行くのは、すごく悪い事をしている気になる。
でも、お母さんに言われた通り、友田さんの部屋をノックすると、中に入った。
今、ベッドで眠る友田さんの顔は、僕に見せる顔よりも幼く見える。
そう言えば、なかなか起きないって言ってたっけ・・・
僕の家に泊まるときは、頑張って早めに起きてくれてるんだ。と思った。
枕もとでしゃがみ込むと、じっと寝顔を見る。
案外、鼻が高いんだな・・・それに睫毛も長いんだ・・・・
普段、こんなにゆったりした気持ちで顔を見る事も無くて、この時とばかりに観察する。
「うっ、・・・ぇ?なに?何でアユムがいるの?」
やっと僕の気配に気づいた友田さんが、目を擦りながら驚いたから、
「おはようございます。」
挨拶すると、僕は友田さんの頬にチュツとキスをした。
ともだちにシェアしよう!