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第90話

 カーテンの隙間から朝陽が差し込むと、僕の意識も覚醒し始めた。 昨夜は、友田さんの香りが残る布団に包まれていたから、少し落ちつけたんだと思う。 ゆっくり布団から這い出ると、僕は立ち上がってカーテンを開ける。 - そうだ、友田さんのトコ行こう ・・・ 漠然と思いついた僕は、大きなバッグを取り出し、自分の着替えを詰め込んだ。 部屋を出たけど、まだ二人は眠っているらしい。 シン・とするリビングを抜け、洗面所に行くと、さっと顔を洗って歯ブラシセットを詰め込んだ。 生まれて初めて、お母さんに何も言わず、家を出る。 ただ、友田さんの迷惑にはなってしまうかもしれないけど・・・・ - - - - -  年の瀬の電車は、やはり混んでいて、僕はまた人に押しつぶされそうになった。 なんとか三田駅に着くと、商店街を目指したが、丁度店の開店時間なのか、シャッターを開ける店の人と目が合う。 「おはようございます」と言われたので 「あ・・おは、ようございます・・・」と返したが、ドキドキする自分がおかしくて、普通に挨拶を交わすのって、こういうんだっけ・・・なんて感心していた。 それほどまでに、僕は違う世界に居たらしい。 花屋の店先は、すでに色とりどりの花が置かれていて、奥で友田さんのお母さんの姿が見えた。 「あ、の・・・おはようございます。」 僕が頭を下げながら、店内に入って行くと、 「あら、佐々木くん!おはよう。・・・・早いわね。」 ごく自然に挨拶されて、ちょっと拍子抜け。 「は、い。あの、友田さ、・・謙さんいますか?」 「ええ、3階の部屋に居るから、上がってちょうだいな。寝てたら叩き起こしてやって!!」 あっけらかんとそう言われ、僕は「はい。」とだけ言って3階に上って行った。 よその家に勝手に上って行くのは、すごく悪い事をしている気になる。 でも、お母さんに言われた通り、友田さんの部屋をノックすると、中に入った。 今、ベッドで眠る友田さんの顔は、僕に見せる顔よりも幼く見える。 そう言えば、なかなか起きないって言ってたっけ・・・ 僕の家に泊まるときは、頑張って早めに起きてくれてるんだ。と思った。 枕もとでしゃがみ込むと、じっと寝顔を見る。 案外、鼻が高いんだな・・・それに睫毛も長いんだ・・・・ 普段、こんなにゆったりした気持ちで顔を見る事も無くて、この時とばかりに観察する。 「うっ、・・・ぇ?なに?何でアユムがいるの?」 やっと僕の気配に気づいた友田さんが、目を擦りながら驚いたから、 「おはようございます。」 挨拶すると、僕は友田さんの頬にチュツとキスをした。

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