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第91話

 息を止めて僕を見る顔は、頭の中でいろいろな事が渦巻いている、そんな戸惑いの表情だった。 「どうしたの?……なんかあった?」 やはり、友田さんは僕をみて心配する。が、僕の足元におかれたバッグを見ると大きく目を見開いて、慌てて布団から飛び出す。 「な、なに、その荷物!」 「僕をここに置いて下さい。お願いします。」と言って、僕は友田さんの胸にしがみついた。 「…え?………」呆然と僕を見たまま、それでもまだ頭の中では考え中のようで。 そんな友田さんの目をじっと見て視線を離さない僕。 しばらく二人の時が止まった様だった。 - - -  「どうして家出なんか...................。」 頭に手を置くと、困った表情で僕を見る。 「自分でどうすればいいのか分からなくなって...........、友田さんの顔が見たくなっちゃった。」 正直に答えると、下を向いた。自分の言葉に照れてしまったんだ。 「........まあ、俺に甘えてって言ったけど、これは.......」 頭に置いた手を今度は膝に乗せると、真剣な顔になる。 - 怒られる? 僕は、下をむいたまま目だけ友田さんに向けた。 「..........ぁああ、その目は卑怯だな!そんな風に見られたら何も言えなくなっちゃうよ。」と言って、僕の肩を引き寄せる。 頭をゴツンと当てられるけど、痛くはない。 「ごめんなさい。僕、迷惑かけてるよね、帰った方がいい?」 肩に置かれた友田さんの手をそっとほどきながら言うが 「いいよ、居てもいい。」 「えっ、ホント?いいの?」 一気に自分の気持ちが軽くなった気がした。 「うん、その代わり、ちゃんとここにいますってお母さんに連絡して。」 「........うん、分かった。あ、でも友田さんのお母さんが......」 僕が心配する。いくら何でも、勝手に転がり込むなんて出来ないし......。 「大丈夫、うちの母親はちょっとやそっとの事でギャーギャー言わないから。ちゃんと連絡して、許可をもらったら居てもいいって言うよ。」 そう言われて少し安心した。 早速、お母さんの携帯にメールを送った。 ” しばらく友田さんの家にいます。心配しないで。” ・・・まあ、心配はするだろうけど、少し時間がほしい。頭の中を整理したかったし、友田さんの意見も聞いてみたかった。 「おれ、母親に話してくるわ。まあ、家出って事は言わないでおく。しばらくうちに居るからって事にしとくからさ。話したくなったら、アユムの口から話してやってよ。」 「うん、........ありがとう。」 友田さんは上着を羽織ると、そのまま下の店に降りて行った。 その後ろ姿を見ながら、僕はまた感謝する。友田さんがいてくれて、本当に良かった。 これからの事、ちゃんと考えてみようと思った。 もう、背を向けていてはいけない。 厳しい向かい風でも、ちゃんと前を見て、自分の足で立っていられるようにならなくちゃ・・・

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