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第92話
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「たくさん食べてね!?」
友田さんのお母さんが、テーブルについた僕の前にサラダを置くと言ってくれた。
「ありがとうございます。頂きます。」
胸の前で手を合わせて言ったけど、ちょっと困った。
目の前には、サラダのほかに焼き魚とお味噌汁、卵焼き、納豆が置かれている。
僕は、納豆が苦手なんだ。
それに魚も・・・・・嫌いではないけど、骨の取り方が下手で汚くなってしまう。
人前でこういう風に食べることが無いから緊張する。
「アユム、納豆食べられる?苦手なら俺が食うから。」
友田さんが僕の納豆に手を伸ばすと
「あら、好き嫌いはダメよ。納豆は身体にいいんだから、佐々木くんは尚更食べなきゃ。」
お母さんに言われ、僕は更に緊張した。
「いいじゃん、今は給食も残していいことになってるんだ。昔みたいに無理強いしないんだよ?」友田さんが納豆を取って言うが、
「だーめ。アレルギーがある物は別として、なんでも食べられるようになるのは、佐々木くんの為になる事よ。あんたはすぐに甘やかすのね?」
友田さんのお母さんは、そう言って納豆を僕の前に戻す。
目の前で睨みあいが始まるから、ちょっといたたまれないんだけど・・・・・
「あの、・・・食べます。だから、・・・・」
納豆のパックを開けると、お箸でぐりぐりかき混ぜた。もう、どうしたらいいんだ。
早くも壁にぶつかってる・・・・
「しっかりかき混ぜて、最後にタレ入れると匂いが薄れるから。」
友田さんがタレの袋を切って、かき混ぜるのを待ってくれていると、横でお母さんがじろりと見る。それを見た僕は焦る。また、甘やかしているって言われそう。
「ほんとに・・・・」と、お母さんは一言だけ言うと、ふっ、と笑った。
「なんだよ・・・」友田さんが横を見て言う。
お母さんは、自分もかき混ぜながら、
「ホントに嬉しいんだね~。佐々木くんが居るのが!」と言った。
僕はドキリとする。思わず友田さんの顔を見たら、友田さんは瞳を大きく見開いて、口をへの字にして絶句。でも、すぐに顔が赤くなってきて、それを見る僕もつられて赤くなる。
深い意味で言ったんじゃないんだろうけど、お母さんに言えない僕たちの関係を知られている気がして恥ずかしくなった。
僕も、友田さんも、目の前のご飯を黙々と食べ続けるけど、苦手な納豆の味も全く分からないし、魚もどうやって食べたのか覚えていない程だった。
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