94 / 128

第94話

   人は、見かけでは分からないもので……。 友田さんの家族に、そんな不幸があったなんて、全く気付きもしなかった。 僕のお父さんは生きている。 僕が知らなかっただけで、海の向こうで元気に暮らしていたんだ。 それは、とても幸せな事で……。 「アユム、この後どうする?何処かに出かけるか?」と言われ、下を向いていた僕が顔を上げると、そこには笑顔の友田さんがいた。 他人の僕が、辛い顔をしていたら申し訳ない。せめて、一緒に笑顔でいなくっちゃ! 「お母さんは、お店忙しいんでしょ?いいの?」 正月前は、花屋さんが大忙しなんだと思った。 お母さんが一人で大変だろうと思って友田さんに聞いたけど、 「まあ、慣れてるから。大丈夫だろ。」と、軽くかわされる。 「僕、お店の手伝いがしたい。あんまり役には立たないかも、だけど。」 本当にそうしたいと思った。見た目ほど楽な仕事では無いと分かってはいる。でも、花に囲まれていると、気分が落ち着くんだ。 「……そうか、なら、俺も手伝おうかな? 最近は、カフェの方ばっかりやってたし!」 そう言って立ち上がると、僕の手を引いた。 「うん。行こ!」 ニッコリ笑いあった僕達は、一階の店舗まで二人並んで軽やかに降りて行く。  案の定、正月用の花を求めるお客さんで混みあった店内。 お母さんは、一人で接客とアレンジメントをしていた。 「手伝うよ。何したらいい?」と、お母さんの肩を叩いて友田さんが聞く。 「あらー、ありがと。じゃあ床に切った枝が散らかってるから、掃いてくれるかしら。えっと、佐々木くんはこっち、ね。」 そういうと、僕の肩を持って押し出す様に入口に向かった。 「・・・?」 なんだろうと思っていると、 「アラ~ぁ、かわいい店員さんねぇ・・・!」 近所の商店の人なのか、エプロン姿のおばさんが入口に立つ僕に近づく。 「いらっしゃい、ませ。」 かろうじて覚えた挨拶をするが、多分顔は強張っていたと思う。 「なぁに?!お手伝い?」と聞かれ、「はい。」と答えた。 「そっか~、じゃあ、何か買っちゃおうかな!」 おばさんが、僕に微笑みながら店内へと入って来る。 ゆっくり目で追っていると、友田さんのお母さんがそっと僕の横へ来て 「おばちゃんは、可愛い男の子に弱いからね~。ふふふ・・」 と、耳打ちした。 - - - なんだかよく分からないけど、笑ってくれてるからいいのかな? 僕は、通る人と目が合うと、「いらっしゃいませー」と言っておく。 すると、何人かは店内に入ってきてくれて、それぞれ花を購入して行ってくれた。 「ありがとうございましたー」 僕の仕事は、挨拶だけだった。 初めは顔も強張ったけど、なんだか慣れてきたら、自然に口元が上がる。 ちょっと楽しい気持ちになったのは、なんでだろう・・・・。

ともだちにシェアしよう!