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第94話
人は、見かけでは分からないもので……。
友田さんの家族に、そんな不幸があったなんて、全く気付きもしなかった。
僕のお父さんは生きている。
僕が知らなかっただけで、海の向こうで元気に暮らしていたんだ。
それは、とても幸せな事で……。
「アユム、この後どうする?何処かに出かけるか?」と言われ、下を向いていた僕が顔を上げると、そこには笑顔の友田さんがいた。
他人の僕が、辛い顔をしていたら申し訳ない。せめて、一緒に笑顔でいなくっちゃ!
「お母さんは、お店忙しいんでしょ?いいの?」
正月前は、花屋さんが大忙しなんだと思った。
お母さんが一人で大変だろうと思って友田さんに聞いたけど、
「まあ、慣れてるから。大丈夫だろ。」と、軽くかわされる。
「僕、お店の手伝いがしたい。あんまり役には立たないかも、だけど。」
本当にそうしたいと思った。見た目ほど楽な仕事では無いと分かってはいる。でも、花に囲まれていると、気分が落ち着くんだ。
「……そうか、なら、俺も手伝おうかな? 最近は、カフェの方ばっかりやってたし!」
そう言って立ち上がると、僕の手を引いた。
「うん。行こ!」
ニッコリ笑いあった僕達は、一階の店舗まで二人並んで軽やかに降りて行く。
案の定、正月用の花を求めるお客さんで混みあった店内。
お母さんは、一人で接客とアレンジメントをしていた。
「手伝うよ。何したらいい?」と、お母さんの肩を叩いて友田さんが聞く。
「あらー、ありがと。じゃあ床に切った枝が散らかってるから、掃いてくれるかしら。えっと、佐々木くんはこっち、ね。」
そういうと、僕の肩を持って押し出す様に入口に向かった。
「・・・?」
なんだろうと思っていると、
「アラ~ぁ、かわいい店員さんねぇ・・・!」
近所の商店の人なのか、エプロン姿のおばさんが入口に立つ僕に近づく。
「いらっしゃい、ませ。」
かろうじて覚えた挨拶をするが、多分顔は強張っていたと思う。
「なぁに?!お手伝い?」と聞かれ、「はい。」と答えた。
「そっか~、じゃあ、何か買っちゃおうかな!」
おばさんが、僕に微笑みながら店内へと入って来る。
ゆっくり目で追っていると、友田さんのお母さんがそっと僕の横へ来て
「おばちゃんは、可愛い男の子に弱いからね~。ふふふ・・」
と、耳打ちした。
- - - なんだかよく分からないけど、笑ってくれてるからいいのかな?
僕は、通る人と目が合うと、「いらっしゃいませー」と言っておく。
すると、何人かは店内に入ってきてくれて、それぞれ花を購入して行ってくれた。
「ありがとうございましたー」
僕の仕事は、挨拶だけだった。
初めは顔も強張ったけど、なんだか慣れてきたら、自然に口元が上がる。
ちょっと楽しい気持ちになったのは、なんでだろう・・・・。
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