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第95話
その日、お昼ご飯を挟んだ5時間くらいの立ち仕事で、僕の足はパンパンになった。
土踏まずが、重い様な痛い様な……。
悲しいぐらい軟弱な僕をよそ目に、バイトで慣れている友田さんは、全く平気な顔で晩ご飯を食べている。
僕の大好物のクリームシチュー………。
なのに、口に持っていくのがやっとで、いまは食い気より眠気の方が勝っていた。
「アユム、大丈夫?目が死んでるけど…。」
そう言われたけれど、返事も出来ない。
「しっかり食べて、お風呂に浸かったら直ぐ寝なさい。」
友田さんのお母さんに言われ、「はい。」と頷いたが、意識はもうろうとしていた。
- - -
簡単にシャワーを浴びただけで、直ぐ布団に入った僕はヘロヘロ状態。
友田さんのベッドの横に布団を敷いて貰い、頭を枕に乗せた途端、意識は飛んでしまった。
しばらくして、なんだか脚が気持ちよくなったので、薄目を開けて見てみる。
すると、僕の足元に友田さんが座っていた。
「なに、.....どうしたの?」と聞くと、
「土踏まず揉んでおくと、明日が楽だからな! こんなに立ってた事なかっただろ?」
そう言いながら、友田さんが僕の足の裏を揉んでくれる。
「…気持ちいい…」
友田さんの方を見ながら言うと、僕はそっと目を閉じた。
ふわーっとした気分で、心地よい眠りについた僕は、その晩友田さんとお母さんが、僕の両親と電話で話した事を知らなかった。
知らされたのは翌朝。
朝食に出されたセロリのサラダを目を瞑って口に入れる僕。
今朝も、友田さんのお母さんは、変わらず僕の偏食を叱ってくれた。
また一つ、食べられるものが増えたのは喜ばしい事で。
きっと、友田さんもこうして育てられたんだなと思ったら、ちょっと微笑ましくなった。
僕のお母さんは、基本、好きなものを好きなだけ食べていいと言う人。
まあ、作れる料理のレパートリーが少ないんだけど........。
それでも、僕の為に料理を作ってくれる事には感謝している。
たとえ冷凍食品が多くても、一緒にご飯を食べるのは幸せな事だった。
それに気づいたのは、ここに来たから。
せっかくの家族の食卓に、僕がいないのは、やっぱりいけない事なんだろうか・・・・
お母さんもこんな風に笑いながら、僕と、お父さんと三人でごはんが食べたかったのかな?そうだとしたら、申し訳ない事をしているな、と思った。
「お父さんは、しばらく日本に居るそうよ?!うちは、佐々木くんの気が済むまで、ここに居てもいいけど、ハワイに戻るまでには会っておく方がいいと思うな。」
友田さんのお母さんは、僕の顔を見ると言った。
その目はとても優しくて、暖かい目だった。
「はい、そうします。・・・」
すぐに、とは言えなかったけど、僕も覚悟を決めなければ・・・・
逃げないで、前を向こうって決めたんだもんな。
「帰るときは、俺が家まで送って行くからな。」
友田さんが言うと、横に居るお母さんがまたクスツと笑った。
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