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第96話
昨日と違って、今日の僕の仕事は、挨拶から力仕事へと変わった。
店の奥から長テーブルを出してきて、それを店先に置く。それからその上に、お正月飾りとかミニ門松なんかを並べていく。
「可愛いですねー、コレ。」
そう言って指差したのは、リースの数々。
リースっていうと、クリスマスを連想するけれど、これは松や南天を使い、きれいな輪を作った中に梅の花で色を添えている。
水引が、さも正月の雰囲気を醸し出しているし、花瓶に生ける切り花のアレンジとは違って、遊び心がある。
他には、小さな箱にアレンジしたモノもあって、僕が初めて目にする物ばかりだった。
今まで花束ぐらいしか知らなかったけれど、形を変えていくらでも自由に生ければいいんだなと思った。
「芸術ですね?」と、お母さんに言うと、
「そうよ、これは立派な芸術なのよ。空間にどの色を持ってくるか、自分の中のイメージを膨らませて、そこに世界を作る。・・・なーんて!」
ふふふ、と笑いながら、手元の花を束ねて僕に言う顔は、本当に幸せそう。
友田さんに聞いた、お父さんの話を思い出すけど、心の奥深く眠るその傷に、絆創膏を貼る様に、花の世界を貼り付けてきたんだろうな。と思った。そうして生きてきたんだ。
僕のお母さんも、きっとお父さんの分まで僕を愛してくれた。そして、足らない部分を補おうとしてくれたのかな・・・。
僕を育てるために、あんなに忙しく働いてくれていたのに。
僕は、勝手に意固地になって、人の目ばかりを気にして・・・
「アユム、そっちの並べたら今度はこれ。」
そう言って、友田さんは箱に入ったラッピングペーパーの束を指した。
「レジの横にテーブルあるじゃん、そこに持って行って。」
「はい。」
言われた通り、その束を持ち上げるが、意外と重い。
- 薄い紙の様なものが、どうしてこんなに重いんだよ・・・
自分の非力さを痛感しながら運ぶと、テーブルに乗せた。
テーブルの下のバーには、綺麗なリボンが並べられていて、コレもラッピングペーパーの色に合わせるらしい。
友田さんのお母さんは、よく一人でこなしているな、と感心する。
それに、この店以外にも、デパートのショーウィンドーの飾りつけをしたり、結婚式のブーケを作ったりと、本当に忙しい。
- 日本のお母さんて、逞しいな・・・・
僕はそんな事を思いながら、その日は店の中を右往左往していた。
一日働いて、晩ご飯を食べ終ると
「チョット私、出掛けて来るから。鍵かけて先に休んでてね!」
友田さんのお母さんは、いそいそと支度をし、出掛けて行った。
「何処に行ったの?」僕が聞くと、
「カラオケ。この辺のオバチャン達と有楽街のカラオケボックスに行ってんだ。」
少しだけ呆れた様に友田さんが言う。
「多分12時過ぎるな。」
「えっ!まだ8時だよ?……4時間も歌うの?」僕が、驚くと「いつもの事だよ。」
そう言って笑う。
あんなに働いて、クタクタじゃないのかな?元気で感心する。
「なぁ、一緒に風呂入る?」
「………ェ、えっ?」驚くと聞き返した。
だって、ここは友田さんの家で、お母さんが居るっていうのに?!
「む、無理。ダメだよ!」
僕が焦るけど、友田さんは
「せっかく二人きりになったのに…、大丈夫だよ、帰ってこないって。」まだ言っている。
「ヤだよ、ドキドキしちゃうもん。そんなの………」
言ってる途中で、僕は腕を引き寄せられると、キスをされてしまった。
…ン……
少しだけ強引に引き寄せられたけど、後はいつもの優しいキス。
腕を腰にまわし、身体を密着させて、互いの目を見つめ合うと、そこだけ湯気が出そうな程上気していた。
「行こ…」と言われ、友田さんに手を引かれて風呂場へと向かう。
- ぁぁぁ、やっぱり抵抗できないや。
家出してきて、頬ではない初めてのキス。
夜は、僕が疲れきって、倒れるように眠ってしまったし………。
手も繋いでいなかったな……。
友田さんは我慢していたんだろうか。僕に触りたかったのかな?
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