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第99話
僕が、ベッドの横に敷かれた布団に潜り込むと、リモコンで友田さんが照明を消す。
すると、ベッドの上からずるり、と躰を落として、僕の布団の上に乗ってきた。
「友田さん・・・もう寝ますよ!!」と言うが「俺も寝るよ。」と言いながら、僕の布団に潜り込んでくる。
「・・・・・友田さん・・・・!」
僕の言葉が聞こえているのに、出ようとはしない。でも、友田さんは本当に寝てしまったのか、やがて、すーすーという寝息が聞こえてきて。
「.......はやっ!!」
驚きながらも、僕は友田さんの背中にくっつくと、気持ちが良くてすぐに目を閉じた。
少し硬い背中に頬を寄せると、暖かさが伝わって心が軽くなる。
- - -
「そろそろ、自分の身の置きどころを決めなきゃね?」
あくる朝、そう言ったのは友田さんのお母さん。
今日は、カフェのバイトで友田さんがいなくて、花屋の手伝いは僕だけだった。
「・・・・はい。」
少し溜めて返事をしたのは、まだ自信が無いから。
「この何日間で、佐々木くんは少し変わったんじゃない?」
そう言われて、自分自身を振り返ると確かにそうかも・・・と思った。
前は、絶対に人と目が合ったら俯いていた。でも、ここへ来る前に、これからは前を向いて行こうと思ったから、それが出来たんだ。
一番苦手な、人と接する仕事。声を出すのも勇気がいる僕が、ここではちゃんと挨拶ができる。
友田さんのお母さんを手伝いたくて、始めた事だったけれど、今は僕の為になっていた。
「僕、自分でも変わったのかなって思います。でも、まだ自信が持てなくて。」
大きなバケツの中で、花の水きりをしながら言う僕に、
「人ってね、大人でも子供でも、自分の身の置きどころを探しているものなのよ。」と言う。
「探している・・」
「小さな事だけど、私、謙の学校行事に行くたびに感じてて・・・、気付くと同じ人の隣に座っていたりして、自然と話が弾むの。知らず知らずのうちに、学校ではその人の隣が私の身の置きどころになってたのねぇ。」
「あ、・・・なんとなく、分かります。」
幼稚園や小学生の頃もそうだった。周りの視線が怖いと思っていたけど、ホントは自分の身の置きどころが分からないままだったんだ。今は学校に行くと、日下部くんの隣が僕の居場所の様な気がする。当たり前のようにいられる。
「じゃあ、佐々木くんの心の置き場所は見つかったかしら・・・?」
「・・・多分。」
本当は、口から出そうになる言葉を飲み込んだ。
僕が、自分の身も心も置く場所として一番の所は、友田さんの隣なんだ。
隣でなくても、心を感じる場所ならいいんだ。離れている時も、心が繋がっている気がするだけで、僕はちゃんと立っていられる。
でも、それをお母さんに話すのは、ちょっとだけ恥ずかしいから・・・。
「そんな心の置き場所を見つけられたら、どんどん外に出て行ってもいいの。必ず戻る場所があるんだからね?!最後はそこで安心できたらいいのよ。」
「はい。」
なんとなく言われた意味が分かった。
きっと自分の家にも居場所を見つけられなかった僕。
安心できる場所がどこにもなくて、だからふらふらしていて、いろんなものから逃げるばかりだった。
でも、今は友田さんがいてくれる。
どんな時も、僕を見ていてくれる。
それが、僕に力をくれるんだ。
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