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第101話

 友田さんのお母さんに、正月用のリースを作ってもらうと、箱に入れて持ち帰ってきた僕は、玄関の前で深呼吸する。 マンションの入口まで送ってくれた友田さんは、僕の背中をトン、と押すと帰ってしまった。ちょっと淋しくて、後ろ姿を見つめていたけど、友田さんはこちらを振り返らずに、片手を上げてゆっくりと振っただけ。 僕はその後ろ姿にお辞儀をすると、エレベーターに乗った。 チャイムを鳴らして少し待つ。 すると、中から出てきたのは僕のお父さん、らしき人だった。 なんとなく、まだ父親だと認識できない。頭ではわかっているんだけど........。 「おかえり。」と微笑むと、僕の鞄を持ってくれた。 「た、だいま・・・。ありがとうございます。」 僕は、リースの入った箱だけを持ってリビングへ行く。 「アユ・・・・おかえり。」 お母さんが嬉しそうに笑った。 「これ、友田さんのお母さんが作ってくれて.....。リースなんだよ!」 箱を空けながら言うと、「わあ、ステキねぇ・・・!センスいいわね。」 そう言って箱から取り出し、どこに掛けようか探していた。 「本当に、謙さん親子には感謝しなくちゃ。アユを受け入れて下さって.....。お手伝いしていたんだって?」 「うん、少しだけ・・・見た目とは違って重労働だった。でも、友田さんのお母さん元気なんだよ!僕の方はヘロヘロになって、すぐに眠くなっちゃうのに、夜中までカラオケに行っちゃうんだよ?!」 箱を片付けながら言うと、「すごいタフなのねぇ!」と驚いた。 「あー、そしたら・・・」と、言いかけてダイニングテーブルの椅子に腰かけるお父さんの方を見る。 「今夜、三人で近くの神社に初詣しようかと思ったんだけど、アユ疲れてるわね?」 お母さんが残念そうに言った。 「・・・・いいよ、大丈夫。昨日は早く寝たし、今朝もゆっくりさせてもらったから。」 僕の言葉で、お母さんの顔がパアっと華やいだ。 「そう!よかった・・・!じゃあ、年越しそばも食べちゃおうっか?」 と、満面の笑みを浮かべる。 ふとお父さんの方に目をやれば、ニッコリと微笑んでいた。 まだ、ぎこちない顔で見てしまうけど、この前ほどの嫌悪感は無い。 むしろ、友田さんのお父さんの話を聞いて、目の前に居る人が本当に僕の父親なんだ、と思ったら生きていたことに感謝した。 ひょっとしたら、ずっと知らないままだったかもしれない。 「年が明けたら、僕、話を聞くよ。・・・まだ日本にはいられるんでしょ?」 と言うと、お父さんは「ああ、・・・・ありがとうアユム。」と微笑んだ。 笑うと、睫毛の奥でブルーの瞳が潤んで揺れる。その瞳を見たら、やっぱり僕のお父さんだ、と思った。

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