102 / 128
第102話
去年の今頃は、何をしていただろう・・・
コタツに入って、恒例のテレビを眺めていたかな?
僕の家は、毎年フランス料理風のおせちを頼んでいて、お母さんがお酒を飲みながらおつまみにしていた。
だから、年が明ける前には、おせちの中身が半分になっていたっけ。
「今年はちゃんと、年越してから食べるわね?」と笑ったが、ちゃんと別におつまみ用の料理を頼んでいたらしい。
お父さんと、二人でお酒を飲みながらテレビを見ている。
少し離れて二人を見ると、昔の記憶が陽炎の様に瞼に浮かんできた。
昔の僕は確かに笑っていた。誰かの膝の上で、笑っていたような気がする。
それが、このお父さん?
きっとまだ、大学生になったばかりだっただろうな・・・
「さあ、そうしたら出掛ける?あと十五分で年が明けるから。」
そう言ってお母さんがコートを羽織った。
「うん、行こうか!」
僕とお父さんが言って、上着を羽織ると玄関へと向かう。
暗闇に映し出される外灯の明かりに、ちらほらと白いものが光っている。
はぁーっと息を吐けば、白い靄がかかった。
三人で近くの神社へと歩くが、他にも同じように歩いている人たちがいて、みな家族連れ。
僕は、なんだかくすぐったい様な気持ちになる。初めての三人での初詣。
小さい時なら、はしゃいでお父さんとお母さんの手を取り歩くんだろうな。
二人の間でぶら下がったりするのかも・・・と思った。
さすがに、今はそんな事したら照れるけど・・・・・・
でも、お父さんの手を取ってみた。
少し目を丸くして、僕の事を見るが、口元を上げるとそのまま黙って歩く。
手袋はしていても、なんとなく熱は伝わるもので、ほんのり暖かい。
「あーっ、いいな!」
お母さんが僕たちを見て言う。
「はい、・・・どうぞ。」僕がもう片方の手を差し出すと、お母さんはニッコリ笑った。
その手を取ると、三人で手を繋いで神社の鳥居をくぐる。
除夜の鐘はもう鳴っていたけれど、僕らは神聖な気持ちで参道を歩いて行った。
ともだちにシェアしよう!