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第103話
参道の中頃まで行くと、さすがに人で賑わっていて、繋いだ手を離した僕らは小さくまとまると進んでいった。
お賽銭を入れるのに並んでいると、周りの視線を感じる。
遠くでお母さんの方を指差して、ひそひそ話す人がいた。
お母さんはファッション誌のモデル。誰か気づいた人がいたのかも・・・と思った僕が、
「お母さん、ジロジロ見られて気になるね!」というと、
「あら、別に。だって、お母さんはみんなに見てもらうのが仕事だもん。見られると気分がいいわよ!?」
そう言って笑った。
「おまけに、私の息子も見てもらえて嬉しいわ。」
僕の肩を引き寄せると、わざとくっついてくる。
- すごいな・・・・お母さんは。
僕は下を向きそうになるのを堪える。
お母さんが、まっすぐ前を向き並んでいるというのに、僕が逃げ出す訳にはいかない。
心臓は、ものすごくドキドキ鳴っているんだけど、心の中で友田さんの名前を呼びながら立っていた。
それから、みんなそれぞれにお賽銭を入れ、手を合わせて願い事をする。
僕は、心の中で最初にお礼を言った。
友田さんに引き合わせてくれてありがとうございます、と。
次に・・・・僕がお母さんと、お父さんの子供で良かった、と言った。
それから、新しい年は、僕にとっていい年にしたい、と願った。
願いと言うか、これは自分でしなければいけない事。なので、これは決意表明?という事なのかな。
隣を見ると、お父さんがじっと目を閉じて願い事をしている。
なんとなくだけど、願い事の一つはわかった気がするが、それを聞いてはいけないから、ゆっくりと待っていた。
「あ、あそこで甘酒配ってる。」そういうと、お母さんが嬉しそうに近寄っていった。
「お母さん、ここでも飲むの?」僕が聞くが、「うん。」と言ってもらっていた。
僕は、お父さんと顔を合わせると、苦笑いをする。
「素敵なご家族ですね!」
ふいに、甘酒をくれた人から言われて、「え?」と驚く僕。
「ありがとう。」と言ったお母さんは、満面の笑みを浮かべた。
僕も嬉しかった。こんな風に言われた事が初めてで、”家族”っていう響きが僕の中に染み渡る。
お母さんが、甘酒をふーふーしながら飲む横で、僕とお父さんはそれを眺めている。
僕たち三人の周りに出来た、家族の輪 の様なものが僕の心を温めてくれて、今まで感じていた人からの視線が、さほど痛くはなかった。
- 不思議だな・・・・・
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