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第104話

   - - -  マンションに戻った僕たちは、取り合えず寝る準備をするが、部屋に戻ろうとしたとき、リビングにいたお父さんから「アユム。」と呼ばれた。 「・・・なに?」 「起きたら、ぼくの話を聞いてくれる?」というので、「うん。もちろん。」と答えた。 「じゃあ、おやすみ。」 「うん。」 扉を閉めてドアにもたれかかると、僕は自分の部屋の中を眺めた。 僕の部屋なのに、なんだか変な感じ。 友田さんの部屋に慣れてしまったのかな? それとも、僕が一人になったせいか・・・ 少しだけ寂しくなったけど、またすぐに会えるから、それまでは我慢だな! 自分に言い聞かせながら、僕はベッドに潜り込んだ。  翌朝目を覚ますと、なんだかいい匂いがして、思わず鼻がフンフンと鳴った。 「おはよう・・」と、キッチンに居るお父さんの背中に声をかける。 「あ、おはよう」 お父さんが、キッチンに立つ姿をはじめて見た僕は、なんだか照れくさくなった。 「何作ってるの?」僕が、背中越しに手元を覗くと聞く。 「パンケーキ。これにドライフルーツとナッツをトッピングして、上から生クリームをたっぷりかけるんだ。」 お父さんが嬉しそうに言うので、ちょっと笑った。 朝からすごい甘そうだな、と思いながらも、ハワイではこういう朝食なのかな、と思った。 「こんな甘いの、お母さんに言ったら叱られるよ?!」 「ああ、これは自分用なんだ。アユムも食べるか?」と聞かれて、うん、と頷いた。 しばらくして、僕たちはパンケーキを頬張ったが、お母さんが起きる気配が無くて 「お母さん起こした方がいい?」と聞くと、いや、いい。といわれた。 僕とお父さんが、男二人でこうして向かい合ってご飯を食べてるなんて、想像もした事が無い。なんだか変な感じだ。 「アユムは勉強が好きなんだってね?お母さんが言ってた。」 そういうと、僕のパンケーキにクリームを乗せる。 「あっ、もういい・・・クリームは胸やけが・・・」といってお皿を引いた。 「僕は勉強が好きなんじゃなくて、他にすることが無かっただけ。」 お父さんに僕の事を話したっていうけど、僕がクラスに行ってないのを知っているんだろうか・・・ 「何か、興味を持てるものができるといいね。」というから、僕は心の中で「僕の興味は、友田さんだけ。あと、花も好き。」と言ってみた。 もちろん、お父さんにはそんな事言えないけど。 「ぼくはアユムの歳の頃、ファッションに興味があったんだ。それで、いろんなファッション誌を読んでた。」 「あ、その時お母さんが載ってるのを見たんだ?」と聞く。 「そう、お母さんはものすごく可愛くて、すぐに好きになった。」 照れ笑いをしながらお父さんは言ったが、目尻が下がってかわいい。 親の恋愛話を聞くのは、ちょっとくすぐったい気持ちになるけど、幸せな気持ちにもなる。この二人がいたから、僕が生まれたんだもんな。 「でも、・・・そんな好きな人なのに、守ってあげられなかった。アユムの事も。」 お父さんは、下を向くと悲しそうな顔をする。 後悔の念を抱いてるのはよく分かったけど、僕が慰めの言葉を掛けるのは可笑しいし...。 「おいしいパンケーキを焼いてくれたから、それでいいじゃない?!僕もお母さんも不幸ではなかったし、今こうしていられるんだから。」これは慰めではない真実。 「うん、ありがとう。」 嬉しそうにお父さんが言ったが、少し前までの自分が恥ずかしくなる。 突然のお父さんの出現に、家出までして反発したくせに..........。さも大人ぶった言葉を発してしまった。 ただ、僕はあの日から少しだけ成長したんだ。もちろん、友田さん親子のおかげで。 今の僕に言えるのは、お父さんが生きていて、一緒に朝ご飯を食べていることが嬉しいという事だけ。ここに存在するという事は、最高の幸せだと思った。

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