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第105話

 「おはよう・・・」 まだ眠そうな声のお母さんが、ダイニングへとやってくる。 「「おはよう、もう10時だけどね?!」」 二人から言われたお母さんは、壁に掛かった時計に目をやるとハッとした顔をする。 「ごめんね?・・・あら、お正月なのにパンケーキ?」と驚く。 「お父さんが焼いたんだ。美味しいよ!」 「あ、そう?なら私も焼いてほしいな。」 僕の言葉に、お母さんがおねだりを始めた。それでも嬉しそうに笑うと、お父さんがキッチンへと行ったから、僕らは顔を合わせて微笑む。 わだかまりは、もう無くなったみたいだ。僕が一人で拗ねたところで、何もいいことは無いし、お母さんが既に決めて選んだ道なんだから。僕はこれからの事を考えればいい。 「お雑煮って美味しいんだけど、結構大変よねぇ?出汁を作るところから始めなきゃいけないし・・・」お母さんが言うから 「お母さんは、市販の顆粒出汁使ってるじゃん!」と、僕がツッコミを入れると 「やめてよー、そういう身もふたもない事言うのは・・・・。せっかくお父さんに出来る所をアピールしたかったのに!」と言った。 お母さんのその言葉を聞いて、僕らは三人でゲラゲラ笑い合った。 ホントに楽しいひと時。 初めての家族でのお正月。 「実は、3日にはハワイに帰らなきゃいけないんだ。その前にアユムと話が出来て良かった。帰って来なかったらどうしようかと思ったよ。」 お父さんは、僕の顔をしみじみと見ながら言った。 「ぼくは、ハワイでショップを経営しているんだ。好きな洋服と雑貨のお店。」 「そうなんだ?!好きな事が仕事になったんだね!」 僕は、なんだか嬉しかった。僕の年頃に興味を持ったことを将来の仕事にしたお父さんが、カッコイイと思ったし尊敬する。 「自分で各国を回って集めた古着もあるんだけど、自分でデザインしたTシャツなんかも販売していてね、一応3店舗持ってる。」 「すごいじゃない!尊敬しちゃうよ。」という僕に、お父さんは照れ笑いをしながら頭を掻いた。 「アユ、話があるっていうのは・・・」と、横に居たお母さんが僕を見ると話しだす。 「お父さんは、あなたを認知したいっていうの。自分の子供だと、法的にも認めてもらいたいって........。」 「実は、ハワイには両親と一緒に、ぼくの・・・・奥さんと子供がいるんだ。」 「.................、」 何処かで予想はしていた。 お父さんが、いくら後悔をしたとしても、遠い年月が経っている。 独身でいる筈がなかった。 「ぼくが何かを残したいと思った時、もちろん子供達には平等に分け与えたいと思っている。だから、アユムもぼくの子供として...」 「お父さん!待って・・・」僕が言葉を遮ったから顔を見る。 「ごめんなさい。それは・・・すごく嬉しいんだけど・・・・」 ちゃんと言葉を選んで話したかった。 感謝の気持ちはある。でも、それとは別の、何か・・・・・ 「もちろん、すぐに返事はできないかもしれない。でも、ぼくの気持ちは知っておいてほしくて・・・」 じっと目を見ながら話すお父さんは、本心を言っていると思う。 ただ、僕が子供すぎるんだ。理解するのには時間がいる。

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