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第106話

 「ちょっと部屋に居る。」 そう言って、僕は部屋へ入るとベッドの上に身体を投げ出した。 天井を眺めながら、神社での初詣を思い出す。 繋いだ手は、離れていた時間を埋めてくれるほど暖かかった。 僕への愛情は、お母さんがくれるものと変わらない。そう思った。 ただ................... 幼い頃の記憶をさかのぼってみる。 残念だけど、お父さんの顔は覚えていなくて、今の顔が僕にとってのお父さんの顔。 お母さんの両親は、僕が生まれて2~3年後には外国へ移り住んでしまった。 数年に一度、日本へ遊びに来るぐらいで、誕生日のカードは忘れずに送ってくれるけど、やはり疎遠になっている。 ”認知”っていう意味をネットで調べてみた。 結婚していなかったから、僕の親権はお母さんにある。 それは、仮にお父さんが、これから僕を認知したとしても変わらない。 お父さんには、奥さんがいて子供もいるんだ。僕の弟か妹・・・ 法的に、僕がお父さんの子供だと認められて、何かが変わるんだろうか・・・ 僕は、お父さんが生きていて、僕に会いに来てくれた事で十分なんだ。 でも、お父さんが認知したいと言うなら、そうしてもらう事がいい事なのかな。 よく分からなくなった。 - 友田さん...............僕、どうしたらいいの? 心の中でそう呟いた時だった。 携帯のメールのランプが点滅して、バイブレーションが作動する。 「あっ、、」 咄嗟に飛び起きた僕は、メールの主が友田さんだと確信していた。 慌てて開いてみる。やはり友田さんからだ。 『あけましておめでとう  今年もよろしく  仲良くしような 』 あっさりとした年始の挨拶に、少しだけ拍子抜けする僕だったが、口元は綻ぶ。 ついでに目尻も下がる。 - ああ、やっぱり僕らは繋がっている。 見えないけど、二人を繋ぐ何かの糸がきっとあるんだ。 そんな事を思い乍ら返信した。 そして、僕は友田さんに『会いたい』と送る。 すぐに返信があり、12時に三田駅で待ち合わせする事になった。 お父さんがいるから、友田さんは遠慮していたらしい。 親子で三が日を過ごすんだろうと思っていたんだ。でも、僕から会いたいと言われたら断れないんだろうな。 とにかく、僕が一人で頭を抱えていても仕方がない。 もちろん友田さんに聞く事でもないけど、いま僕が頼れるのは友田さんしかいなくて。 だから、落ち着くためにも会いたいと思った。 友田さんが買ってくれたお揃いのマフラーを首に巻き、僕は二人に出掛けると告げると走ってバス停に向かう。 そうして電車に揺られ、三田駅の改札口。 コートのポケットに手を入れて、下を向きながら待つ友田さんの首には、お揃いのマフラーが・・・。色違いだけど、絵柄は同じもの。裏になってて見えないだけ。 そんな些細な事が、僕たちに喜びと、はにかみを与えてくれる。そして幸せも・・・。 「友田さん!」僕が大きな声で呼んだから、ハッとしてこちらを見た。 「お、っす!」照れながら、僕の方に近づいて来る。 手を繋ぎたかったけど、そこは我慢した。 でも、友田さんは僕の背中に手を当てると、ポンポンと撫でるように合図する。 会えて嬉しい気持ちの証。 背中に伝わる優しさが、僕を包んでくれた。

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