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第107話
お昼という事もあって、僕らは近くの喫茶店へ入った。
この店は、僕にとってはあまりいい思い出がないんだけど、友田さんは知らない。
でも、結果僕たちを結び付けてくれる役目をしたのが小金井さんだとしたら、ここはそのための出発点になるのかも・・・。
ここで、自棄になって小金井さんについて行き、僕は危うく犯されるところだった。
・・・でも、多分小金井さんには、そんな気はなかったと思う。
あの頃の僕は、まるで心を失ったみたいで、きっと試されたんだ。
友田さんに気持ちが動いていることを自覚したばかりだったのに、受け入れてはもらえない様な気がして・・・・
「アユム、オムライスでいい?」友田さんが聞いてくる。
「うん、同じのにする。あと、抹茶アイスも食べる。」というと、「え!」と驚かれた。
「この寒いのに、アイスなんか食べるのか?」
まじまじと僕の顔を見て言うけど、別に熱いとか寒いとかは関係なくて、冬でも食べるだろうと思っていたんだけど・・・。
「ダメなの?」と聞くと、「いや、アユムが食べたいならいいけど、さ。」
そういうと、店員さんに注文を始めた。
テーブルに向かい合って互いの顔を見る。
ちょっと、恥ずかしいな・・・・
考えたら、きのうの夕方に家まで送ってもらって、今日はもう顔が見たくなってる。
3日間も離れていたら、どれだけ寂しいと思ってしまうんだろう。
これから学校も始まって、友田さんはまたアルバイトに忙しくなる。
そうしたら、また何日も会えないな・・・・・
「どした?・・・なんかあった?」
友田さんが、僕の顔を覗きながら聞いてくる。
「う、ん。・・・」口ごもる僕に
「お父さんの事?」と言うと、身体を乗り出した。
友田さんの顔を見て落ち着きたかったんだけど、会えばやっぱり甘えたくなってしまう。
僕は下を向くと、なぜお父さんが僕に会いに来たのかを話した。
「アユムのお母さんて・・・なんか、スゴイ。19やハタチで親になるって決めるなんて、結構勇気いるよ?!お父さんが16歳だったってのもすごいけど・・・」
「だよね。友田さんならどうする?」と聞いた。おなじ16歳としては、どんなものなんだろう。すると、
「俺は、そんな心配はないな。だって女の子は苦手だもん。」という。
- まあ、そうだよね?!
友田さんは、僕がいいんだからさ。なんてうぬぼれてみるが、内心はちょっとドキドキ。
女の子と付き合うって言いだされたら、僕はどうしたらいいんだか・・・
聞いておいて、すごく複雑な気分になったから俯いた。
「でも、・・・俺はアユムとなら、ずっと一緒にいたいな。」
真剣な声で言われて、僕は慌てて顔を上げる。
ちょっとだけ周りを見回すが、特に聞かれてはいなかった。
「友田さん・・・・僕も!」と言うが、顔が熱い。
《お待たせしました、オムライスです。》
その声で、二人下を向くと、目の前に置かれたオムライスを見た。
なんだか、言葉が出なくてじっとしていると、「はい。」と言ってスプーンを渡してくれる。
「ありがと。」
少し照れながらも、僕はスプーンを手に取ると食べ始めたが、オムライスのケチャップが甘いのか、僕の気持ちがとろけそうに甘くなったのか分からなくて、ゆっくりと噛みしめながら口へと運んだ。
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