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第110話
ここで浩二さんに捉まるなんて思ってもみなかったけど、僕は友田さんと二人でビルの地下にあるカラオケボックスに連れてこられた。
元旦から営業しているんだな・・・と、ジュースを飲みながら室内を見回す僕に
「謙ちゃんとアユムくんはデート中だったの?」と、浩二さんに聞かれ、ブホツとむせてしまった。
「だっ・・・たって・・・?」おしぼりで拭きながら慌てて聞くが、浩二さんは茶髪の人と二人でにこやかに笑っている。
横に座る友田さんは、ニコッと笑っているだけで、特に否定も肯定もしなかった。
「ふ、二人は・・?で、デートなの?」
僕が聞き返すと、
「そうだよ?!大みそかからずーっと一緒にいるんだもんね~!」
浩二さんが、茶髪の肩にもたれ掛かるから、ギョッとした。
前に、付き合っているという事は聞いていたけど、目の前の二人を見ると甘い雰囲気は感じられなくて、この先の事は深く聞かないでおこうと思った。
「二人はもうヤった?」
「「.........................。」」
唐突に茶髪の人が聞いてくる。僕は躰が固まった。でも、眉はピクピク動いていたと思う。
「こ~ら!!アユムくんにそんな事聞いたらダメだよ?!」浩二さんが茶髪の頭を小突きながら言うが、
「だって気になるだろ?おれ達と一緒なんだったら話とかできるしさ。情報交換、とか・・・」
「ば~か、何の情報を交換するんだよ。やらし~な~!」
目の前で繰り広げられる会話に、ついて行けない。しかも、強面の二人組が・・・あんな事してるのかと想像したら・・・・・はぁ・・・・怖い!
「ねえ、なんか歌ってよ!そのために来たんだろ?」と、友田さんは平然と言った。
「あっ、そうそう・・・おれ、ワン/オク。」茶髪の方が、何やらキカイにペンを這わせている。と、モニターの画面に映像が流れ出し、音楽に合わせて、大音量で歌う強面の顔が弾けてきた。
耳が悪くなりそう。と思ったけど、じっと我慢して聞いていた僕の横で、友田さんがこちらを見るとニッコリ微笑んだ。
僕はカラオケボックスに入ったのは初めてで、こんな個室がいくつもあって怖いような気がした。中にいる人は外から見えないんだ。まぁ、だから思い切り歌えるんだけど・・。
”認知”の相談が、とんだ方向へ行ってしまったけど、浩二さんも茶髪の人も、友田さんも楽しそうだからいいのかな?僕も、今日は悩まないで楽しもう。すぐに答えは出さなくてもいいと言われたし・・・。
こういう事が楽しいなんて、今までちっとも知らなくて、ある意味、この人たちに出会えた事で、僕の世界は広がった気がした。
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