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第111話

 大音量の中で、1時間が過ぎた。 その間に、浩二さんと茶髪の人は食べ物を注文して、朝ご飯だと言って食べる。 既に、時計の針は3時近いんだけど・・・・・・ 「アユムくんも、何か歌いなよ。」と言われるが、僕は「無理無理。」と首を横に振る。 生まれてこのかた、人前で歌ったのは小学生の音楽の時間だけ。 試験で歌った時、僕の声が小さすぎて、先生に何度もやり直しをさせられた。 あれは、トラウマになった。 以来、人前で声を出すのは苦手になるし、歌なんてもってのほか!! 「じゃあ、俺が歌う。」そういうと、友田さんが僕に向けられたマイクを持ってくれる。 ホッと胸を撫でおろすと、画面に映し出された映像を見た。 友田さんが歌うのをはじめて聞くが、声は話すときより高くて通る声だった。 さっき茶髪の人が歌った曲をまた歌うが、僕の耳には友田さんの方がうまく聞こえて、ちょっとだけ、ニヤケてしまう。 「やだなー、謙ちゃんうますぎー!」と浩二さんが言うと、「おれの方がうまいっしょ!」と茶髪が身体ごとのしかかる。 目の前で、大きな強面がイチャイチャし始めて、僕は目のやり場に困った。 自分の事は棚に上げて言わせてもらうと、ちっとも可愛くない。 見た目で判断することはいけないけど、やっぱり半分プロレスみたいになっている。 友田さんが、僕に触れるのとは違う。 バスツと拳が飛んでいる。・・・・・怖い・・・・・! そんなことを思いながら、時間が過ぎていくと、少し休憩。 ジュースを飲んだり、残ったポテトを摘んだりした。 「そういえば、春から高校生じゃん。」 浩二さんが僕の方を見て言った。 「海星学院って、1年の時に志望大学決めるってホント?」と、聞いてくる。 「うん、そうだよ。3年生になったら受験のための勉強をするんだ。だから中学卒業の時には高校1年の勉強を終わっているんだよ。」と説明した。 「すっげー、そしたらアユムくん、オレらとおんなじ学力か?」 「ばーか、同じじゃないだろ!おれらの方が下だって―の!!浩二は小学生レベル。」 茶髪が浩二さんに言った。 「・・・当たってるだけに、何も反論出来ね~。」 ポテトを頬張りながら、浩二さんが笑う。 「アユムくんはどこの大学行きたい?」浩二さんに聞かれ、僕はじっと固まる。 行きたい処なんかない。自分の将来を漠然とでも考えた事が無かった。 僕にとっては、今が精一杯で.........。

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