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第114話
「ただいま~!」
玄関を開けると大きな声で言った。
「「おかえりー。」」
二人がリビングでくつろぎながら迎えてくれる。
そんな二人を見て、入口の所で立ち止まってしまった僕に、「どうしたの?」とお母さんが聞く。
「うん、・・・なんか、家族なんだなって思って!」
「え?」
不思議そうに僕の顔を見るけど、すぐに笑顔になると「そうね、家族ね!」と言った。
もちろん、それはこの状況での事。法的には、お父さんはいない事になっている。
でも、そういうのは関係ないなって思った。
「アユム、ありがとう。ぼくも家族に入れてくれるのかい?!」
お父さんが聞くから、「もちろん。」と言う。
「寒かったでしょ?コタツに入りなさいな。」
と言ったお母さんの横に座ると、僕は二人の顔を交互に見た。
「なあに?」と聞かれて、
「僕、いろいろ自信が無くて、いつも周りを気にしていたんだけど、それって心の帰る場所が無くて不安だったのかなって思ったんだ。」
「........そうなの?そんな風に思っていたの?」と、お母さんは少し心配そうに言った。
「うん、でもお父さんが会いに来てくれて、僕をちゃんと認知したいって言ってくれた時、感じていた不安は薄れていった。それに、僕は二人にちゃんと愛されてるんだって分って、ここが僕の帰る場所なんだってわかった。」
「アユ・・・・」
小さな声で、お母さんは涙ぐむ。
そして僕の背中をさすりながら、「ごめんね?お母さんはアユを一人ぼっちにし過ぎてた。」
と言う。背中に感じるお母さんのぬくもりが、僕の心を温かくしてくれる。
「謝らないで。お母さんは僕を育ててくれたんだから。感謝してるんだ。」そう言って手を取った。色の白い綺麗な指をしたお母さんの手は、友田さんのお母さんとは違っていたけど、一生懸命僕を育てた手なんだ。決して楽をしていたわけじゃない。
「僕がお父さんの息子として、立派な大人になれるかどうかは分からないけど、僕なりに頑張ってみるよ。ただ、認知の話はもう少し考えさせてください。」
お母さんの手を握りながら、僕はお父さんに言った。
お母さんは僕を産むとき、相当の覚悟をして産んだと思う。
小さな命をこの世に出して、自分の人生を歩んでくれることを願ったんだ。
それで、僕に”歩”って名前を付けたって言っていた。
今まで人の目を気にして、うしろ向きに歩いていたけど、これからはお父さんとお母さんの子供として、ちゃんと前を向いて歩きたい。そう思った。
「アユムの納得のいくまで考えていいからね?大人になってからでもいいんだ。ぼくがアユムの父親だって思ってくれてたら、それで嬉しいし。」
優しいブルーの瞳で話す。
「はい、ちゃんと考えます。」
僕は二人の顔を見ながら言った。
コタツの中で三人、足の先が当たると、そこからはまた暖かい温もりがにじみ出していた。
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