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第115話
朝、洗面所で髭を剃っているお父さんと目があった。まじまじと顔を見る僕に
「どうしたの?そんなに見られたら恥ずかしいよ。」と、笑う。
「やっぱり若い。31歳って、日本じゃアイドルの人がいるくらいなのに……」
つくづく、若くして父親になったんだな、と思って言った。
「ハハハ、アイドルって……。まあ確かに、アユムの友達のお父さんと比べたら、ひよっこだよね?」そう言って笑う。
"友達のお父さん"って言われても、僕には解らなくて…。
「僕、友達と呼べる人がいないんだ。だから、……」
「けど、昨日一緒に居たのは友達なんだろ? お母さんは、とてもお世話になっていると言ってたよ? 」
お父さんが、髭を整えてから僕の方を見ていった。
友達……っていうか……。
なんと説明しようか。
「友田さんは、お父さんを亡くしているんだ。それに、友達……っていうか、それ以上の存在で…」言葉を詰まらせた僕に、
「そうか、……お父さんを亡くされているのか。それなら、尚更アユムにとっては友達以上の親しみがわくよね。」
と言われ、少し違うような気がしたが黙っていた。
「いつかその子にも会いたいな。今回も大変お世話になってしまったし・・・」
「うん、いつか。ね!」僕はそういうとキッチンへ行った。
お母さんがお雑煮を作っている。
こんぶと鰹節で、ちゃんと出汁を取ったみたい。僕が”顆粒出汁”なんて言ったから気にしたのかな?味見をすると、こちらを見てニッコリ笑った。
「今日は本格的。ちょっとだけ、お父さんにいいとこ見せなくちゃ、ね!」
そう言ってペロッと舌を出すが、そういう所がお母さんの可愛いところ。
「きっと喜ぶね!僕も早く食べたいよ。お腹すいちゃった!」
「はいはい!」
二人でお鍋とお椀を持つと、ダイニングへと行った。
あっさりした鶏肉入りのお雑煮を平らげると、僕とお父さんはまたコタツに入ってまったりした。テレビは正月番組のオンパレード。毎年同じような番組を見ているような気がする。でも、その「同じ」っていうのが、実はとても幸せな事なんだと知る。
世の中には、いろいろな状況で暮らす人がいて、それぞれに歳を越しているんだ。きっと大変な暮らしを強いられている人もいるだろう。
だけど、みんな明日がいい日である事を願っている。明日が必ず来ると思って暮らせる事は、すごく幸せな事なんだ。やっと僕もそう思えるようになった。
「春には高校生だねぇ。何か欲しいものとかある?」
お父さんが聞いてくるが、別に欲しいものはなかった。
それよりも・・・・・・僕は、昨日浩二さんたちに言われた言葉を思い出す。
「お父さんは、どうやって高校を決めたの?行きたいところに入れた?」
僕が聞くと
「そうだなぁ、ぼくは中学生の頃から絵とかファッションに興味があったから、そういう事に時間が使える所を選んだな。実は、あまり勉強が得意ではないんだ。」
すこし苦笑いをしながら答えてくれる。
「アユムは海星学院っていったら進学校だもんな。勉強もできるし、行きたい大学とかあるんだろ?」
「・・・・・実は、大学の事は全く頭になくて、それより今の学校を・・・・変わりたいって思ってる。」
ついに言ってしまった。それもお父さんに。
「嫌な事があったのか?」心配そうに聞かれて、少し焦るが、ううん。と首を振った。
あのことは、僕の中ではもう過ぎ去った出来事だった。それより友田さんたちが、僕を守ろうとしてくれた事の方が大きかった。
「勉強はするべきだと思うけど、海星学院では意味を持たないんだ。勉強と同じぐらい大事にしたいものがある。・・・友情、とか・・・・」
「あぁ、・・・そうか、その大事な友達が行ってる高校?そこに行きたいんだ?!」
お父さんが納得できたのか、大きく頷くと言った。
「うん、・・・・できれば。」
勢いで言ってしまったけれど、自分の道を歩んできたお父さんにだから、言えたのかも。
でも、言った後で急に胸がドキドキし始めた。
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