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第116話

 「なんの話?」 キッチンで洗い物を済ませたお母さんが、コタツでくつろぐ僕たちに聞いた。 僕は一瞬固まる。お父さんに言ってしまったけれど、本当はお母さんに話してからの方が良かった。僕の保護者はお母さんなんだから.......。 「え、っと...........高校の話を。」 たどたどしい僕に 「アユムの進路の事を聞いていたんだ。ぼくが聞く事でもないんだけど、一応気になったものだから。」 お父さんは僕の気持ちが分かったのか、そう言ってくれた。 「進路って、そのまま高校に上れるんでしょ?確か前に学年主任がおっしゃったわよねぇ。ダメなの?」 僕に向き直ると、お母さんは心配そうに話す。 不登校児童のタグ付けされた僕は、前にお母さんと一緒に学校へ呼ばれた。 その時、高校には上れると言ってくれたんだけど、単位が取れないと進級は難しい。 いくら試験の結果が良くたって、授業に出ないと取れないものもある。 かといって、今の僕が高校生になった途端クラスに馴染めるとは思えないし・・・。 まだまだ僕の中には甘えがあった。自分でも分かっている。 けど、友田さんがいる高校なら・・・・・・ これも甘えなんだろうか・・・・。 お父さんが、ふいに聞く。 「今まで、アユムってわがままを言った事あるの?」 「・・・う~ん。無い・・・かな?!」 首を傾げながら、僕を見てお母さんが言う。 「あるよ。・・・学校に行かなくなった時期があるじゃないか。あれは僕のわがままだし・・・・。お母さんを泣かせてしまった・・・・」 正直に話す僕をお父さんが見つめる。知っていたかもしれないけど、自分で言いたかった。僕の内面を知ってほしい。上辺の僕だけを見てほしくはなかった。 「そうか・・・アユムはもう人生経験を積んでいたのか・・・・だったら、自分で決めなさい。きっと、嫌な思いをたくさんしただろうけど、それがアユムの教科書だ。突き飛ばされたり、つまづいて転んだって、また自分で立ち上がればいいんだ。」 「お父さん・・・」 「ぼくは君たちに何も出来なくて、本当に申し訳ない気持ちでいたし、いっぱい後悔したんだ・・・・。でも、その後悔はぼくを大きくしてくれた。自分で店を持ったのも、いつかアユムに出会う時、少しぐらいは自慢したいと思ったからなんだよ!?」 クスッと笑いながら言ったけど、僕にはなんとなく分かった。 僕だって、友田さんに甘えてばかりだけど、いつかきっと役に立ちたいと思っているんだ。そのために何をしたらいいのか・・・・近くで探してみたい。 「アユ・・・あなたはどうしたいの?自分で決めていることがあるんなら言ってみて。お母さんは、海星学院って大学へ行くためにはいいと思って進めたけど、今のあなたに合っていないんだったら、行く意味がないもの。」 割とあっさりした口調でお母さんが言った。 「僕は・・・友田さんが通ってる高校に行きたい。学年は違うけど、同じ校舎にいるって事で、きっと勇気も沸くと思うんだ。友田さんの前ならまっすぐ前を向いて歩ける。・・・って、思うから・・・。」 ここまで言って、急に恥ずかしくなった僕。 目の前の二人が、じっと僕をみては口元をほころばせていたから、ドキッとした。 ・・・・・なにか、変な事を口走ってしまったんだろうか・・・・?

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