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第119話
凍えそうな冷たい水で、ざぶざぶと顔を洗った僕は、視線をあげて鏡を見つめる。
そこに見えたブルーの瞳を確認すると、お父さんと血がつながっている事を感じた。
明日から新学期。
結局、友田さんとはあれから会えないままで...。
カフェのバイトの大学生が、田舎へ帰ったきり戻ってこないと言っていた。
それで、急きょ友田さんが駆り出されてしまったんだ。
僕は、三田駅の近くの大型書店で買い物ついでに、カフェへ行こうと思った。
高校を変わるっていう話が、現実のものとなった事をメールで告げていたけど、友田さんの顔を見て報告したかったから。
メールの返事では、すごく驚いていたけど、喜んでもいた。
そんな嬉しそうな顔をこの目で確かめたくて、僕は仕度を済ますと家を出る。
お母さんは、友人たちとの新年会だとか。
きっと、遅くまで飲んでくるんだろうな・・・・
でも、そういう日も必要だと思う。
お母さんは、お父さんがハワイに帰ったあと、結婚しないまま歳をとることが不安になったって言っていた。僕は、お母さんには幸せになってほしい。独身のままでも幸せならいいし、好きな人が出来たら結婚してくれてもいいと思ってる。
僕らが家族であることに変わりはないんだから・・・・。
電車に揺られてそんな事を考えていたら、あっという間に三田駅に着いた。
人混みの中、大通りを歩いて書店に入った僕は、早速、受験勉強用の問題集を手に取った。過去に出題された問題が出ていて、友田さんの高校の問題も出ている。
ペラペラとめくってみるけど、そんなに難しいものはなさそうでホッとしたが、一応買って帰ることにした。
レジの方へ向かっていくと、後ろ姿に見覚えのある人が、先頭で会計をしていた。
- 桃里くん...................。
一瞬足が止まる。
本棚の影に隠れようか.......
そんな事が頭をよぎるけど、僕は何も悪い事をしていない。
一歩ずつ近づいて、並んだ列の最後につく。
会計を済ませたらしく、桃里くんは振り返ると、入口の方に身体を向けた。
とその時、視線を感じたのか、僕と目が合ってしまった。
「ぁ.....」
口だけ開くと、僕の顔を見て少し戸惑うが、すぐに穏やかな微笑みを向け直した。
「こんにちは。えっと、明けましておめでとう・・・ですかね。」
そう言って、レジに並んでいる僕の横に来た。
「明けましておめでとう。・・・」
前の人が会計を始めたから、僕は一歩ずれながら言う。
自分では、出来るだけ平静を保とうとしたけど、胸の奥で鼓動が大きくなるのを感じる。
あの日の出来事は、すべて友田さんが上書きしてくれて、そっちのほうがよく覚えているぐらいだった。なのに、桃里くんの顔を見れない。
お金を払い、問題集を袋に入れてもらうと、僕は入口の方を向いて歩き出す。
「佐々木先輩。時間ありますか?」
僕が会計を済ませるまで待っていたのか、桃里くんが声を掛けてきた。
「・・・・悪いけど、行くところがあるから・・・」
友田さんのバイト先へ行くつもりの僕は、そう言って断ろうとした。
もし時間があるとしても、桃里くんと二人にはなりたくない。
「僕も行っていいですか?近くですか?」
なおも聞いてくるから、僕はいい加減カチンときて
「悪いけど、って言ってる。桃里くん、よく普通に話ができるよね。」と言った。
「・・・・・・」
無言で頭を下げる桃里くんを見て、さすがに、言い方がきつかったかな?と思った。
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