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第120話
大きな身体で下を向くから、僕が困らせているような気になる。
困らせているのは桃里くんの方なのに......。
「言い方がきつかったらごめん。・・・でも、時間無いから。」
そう言って店から出ようとした。こんな所で立ち止まっていたら迷惑になるし、桃里くんと話すことも無いんだ。
桃里くんは僕の顔をチラリと見ただけで、何も言わなかった。
というよりは、言えなかったんだと思う。
桃里くんが、僕を好きだと言ってくれた事は有難いけれど、僕の好きなのは友田さんなんだ。桃里くんの気持ちには答えてあげられない。
僕は振り返らずに、まっすぐカフェを目指した。
雑居ビルの中の木枠のドアを開けると、綺麗な花が生けられていて、とても自然な色合いの中にオレンジ系の花々。種類の違う花たちが、自己主張せずに周りに溶け込んでいる。
友田さんのお母さんの生け方だな、と思った。
色をぶつけ合うんじゃなくて、それぞれが互いのいいところを引き出し合うっていうか。
難しいけど、僕にはそう感じた。
「いらっしゃいませー。」
カフェに入ると、店員が挨拶をする。
「こちらにどうぞ。」
奥のテーブルに通されて座るけど、店の中に友田さんの姿が無くて、僕はじっと辺りを見回す。
「あ、友田くんは厨房に居るんだ。」
「え?」
僕を通した人に言われて驚いた。
「あれ、友田くんの友達だよね?!よく来てた、…」
「あ、はい。すいません・・・いきなり来たから。」
お母さんがハワイに行っている間、僕は晩ご飯を食べに来ていたから、覚えていてくれたみたいで。
メニューを置くと、その人が奥へと入って行った。
少しすると、奥から笑顔の友田さんがやってきて僕のテーブルに近づいて来る。
「アユム、どうしたの?また晩ご飯食べに来た?」
そう言ってオーダーを取ろうとする。
「こんにちは。今日はお母さん新年会で。」
「あ、・・・そうなんだ?!・・・ザンネン・・」
小さな声で言うからよく聞こえなくて、「え?」と聞き返したがううん、と首を振った。
「注文、何にする?」と聞かれたので、僕の好物のハンバーグ、と答える。
「了解。紅茶は俺のおごりな!」
そう言うと、顔をクシャっとさせて笑う。
「ありがとうございます。」
お礼を言う僕に首を振りながら、友田さんは奥の厨房へと消えて行った。
ひとまず、友田さんの笑顔を見て気を良くした僕は、料理が出てくる間、さっき買った問題集を取り出すと、中を確認した。
「いらっしゃいませー」
その声を耳にしながら、問題集を眺めていると、頭の上に人の気配が。
「・・・・・ぁ。」
顔をあげた僕は、そこにいる人の顔を見ると、ため息交じりの声を洩らしてしまう。
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