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第121話

 自分の目を疑ったけれど、目の前に居るのはさっき別れた桃里くんだった。 「・・・・・・・」言葉も出てこない。 「失礼します。」 そう言って、僕の向かいの椅子を引いて座るから、え?と驚く。 あんなに拒否したのに、桃里くんには伝わっていなかったのか・・・。 「桃里くん!」という僕を無視するように、オーダーを取りに来た店員さんに 「この人と、同じ物ください。」と言った。 少し首を傾げた店員さんは、僕の顔を一旦見て、そのまま伝票を持つと奥へ戻っていく。 「全然時間あるじゃないですか。誰かと待ち合わせなのかと思ったら一人だし。」 桃里くんが、水を口に持って行きながら言った。 「桃里くん・・・・僕は・・・」 繋げる言葉が見つからない。ここでモメるみたいなことはしたくないし。 友田さんが奥の仕事で良かったけど、こういう場面を見てなんと思うか・・。 僕は、前に見た友田さんの、桃里くんに対する顔を思い出す。 参考書を買いに行っただけで、すごく気分を害していた。もしも、あの日僕を犯したのが桃里くんだと知ったら・・・・・。 僕の口からは言えない。言うのが怖いし、友田さんも聞いてはこなかったから・・・。 「なんで、・・・受験用の問題集を?」 僕の手元を覗き込んで言うと、ヒョイっとそれを取り上げる。 「ちょ、っと!!」思わず声が出て、取り返そうと手を伸ばした。 「先輩・・・まさか、別の高校行くつもり?」 目を丸くして、桃里くんは驚いているようだった。 《お待たせしました。》 注文したハンバーグが運ばれてくると、僕らは黙ってそれを食べやすい位置に置く。 「ハンバーグが好きなんですね!」と言って、桃里くんが一口頬張った。 僕は無言で口に運ぶと、目の前でパクパク食べる桃里くんを見る。 桃里くんの考えている事が分からない。拒否されても気にしないっていう事? さっき見た友田さんの笑顔が薄れてきた。 早くこの場を離れたいという気持ちで、味わえないままハンバーグを食べる。 先に食べ終わった桃里くんが、食べる僕の顔をじっと見ているけど、気にせず食べ続けた。 《こちら、紅茶です。》 その声で、黙々と食べる僕のフォークが止まった。 ひとつだけトレイに乗せた紅茶セットを持ってきたのは、友田さん。 僕の前にそれを置くと、向かいの桃里くんの方を見た。 - あぁぁ・・・・・・ 一気に僕の気分は沈んでいった。

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