121 / 128
第121話
自分の目を疑ったけれど、目の前に居るのはさっき別れた桃里くんだった。
「・・・・・・・」言葉も出てこない。
「失礼します。」
そう言って、僕の向かいの椅子を引いて座るから、え?と驚く。
あんなに拒否したのに、桃里くんには伝わっていなかったのか・・・。
「桃里くん!」という僕を無視するように、オーダーを取りに来た店員さんに
「この人と、同じ物ください。」と言った。
少し首を傾げた店員さんは、僕の顔を一旦見て、そのまま伝票を持つと奥へ戻っていく。
「全然時間あるじゃないですか。誰かと待ち合わせなのかと思ったら一人だし。」
桃里くんが、水を口に持って行きながら言った。
「桃里くん・・・・僕は・・・」
繋げる言葉が見つからない。ここでモメるみたいなことはしたくないし。
友田さんが奥の仕事で良かったけど、こういう場面を見てなんと思うか・・。
僕は、前に見た友田さんの、桃里くんに対する顔を思い出す。
参考書を買いに行っただけで、すごく気分を害していた。もしも、あの日僕を犯したのが桃里くんだと知ったら・・・・・。
僕の口からは言えない。言うのが怖いし、友田さんも聞いてはこなかったから・・・。
「なんで、・・・受験用の問題集を?」
僕の手元を覗き込んで言うと、ヒョイっとそれを取り上げる。
「ちょ、っと!!」思わず声が出て、取り返そうと手を伸ばした。
「先輩・・・まさか、別の高校行くつもり?」
目を丸くして、桃里くんは驚いているようだった。
《お待たせしました。》
注文したハンバーグが運ばれてくると、僕らは黙ってそれを食べやすい位置に置く。
「ハンバーグが好きなんですね!」と言って、桃里くんが一口頬張った。
僕は無言で口に運ぶと、目の前でパクパク食べる桃里くんを見る。
桃里くんの考えている事が分からない。拒否されても気にしないっていう事?
さっき見た友田さんの笑顔が薄れてきた。
早くこの場を離れたいという気持ちで、味わえないままハンバーグを食べる。
先に食べ終わった桃里くんが、食べる僕の顔をじっと見ているけど、気にせず食べ続けた。
《こちら、紅茶です。》
その声で、黙々と食べる僕のフォークが止まった。
ひとつだけトレイに乗せた紅茶セットを持ってきたのは、友田さん。
僕の前にそれを置くと、向かいの桃里くんの方を見た。
- あぁぁ・・・・・・
一気に僕の気分は沈んでいった。
ともだちにシェアしよう!