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第122話
ほんの1、2秒の沈黙で、今食べた物が戻りそうなほど緊張する僕だった。
「そういう事ですか・・・・・こんにちは。」
挨拶したのは桃里くん。
普通に友田さんの顔を見る。が、「ボクには?」と言って、紅茶を指差した。
「悪いな、コレは俺がアユムにおごった分だから。」
そう言って、僕の食べていたハンバーグのお皿を奥へやると、
「こちらはお下げして宜しいですか?」と桃里くんの食べ終わった皿を手にとった。
「…はい。」
返事をしながらも、僕の前の紅茶を見る。
「あの、ボクも紅茶ひとつ。自分で払いますから。」
友田さんと、桃里くんの顔を交互に見ながら、一人で焦る僕は、居たたまれない気持ちになる。
「少々お待ち下さい。」と言って伝票を手にした友田さんが席を離れると、
「ある意味、待ち合わせですね!・・・ハンバーグ、もう食べないんですか?」
と、僕のお皿を見て言った。
「……う、ん。いい……」
とても喉を通りそうになくて、悪いと思うけど残してしまった。友田さんが、お皿を奥へやったのは、多分無理に食べなくてもいいという意味なんだろう。
ティーポットに手を伸ばし、カップに紅茶を注ぐ。
白い器に足されていく琥珀色の液体を見るが、僕の手は微妙に震え、カップの淵をカタカタと鳴らしてしまう。
「失礼します。」
そう言って、紅茶を手にして戻って来た友田さんが、桃里くんの前に置いた時だった
「先輩、少食だからそんなに細いんですよ。腰なんて、ボクの片手で掴めるんだもんな。あばら骨だって、浮き出てたし。簡単に抱えられちゃうんだから。」
その言葉で、友田さんが桃里くんを見た。
僕は体から力が抜けて、紅茶を口にする事も出来ない。
- 知られてしまった?
そう思ったら、友田さんの顔を見る事が出来なくなった。
「…以上で、ご注文の品は終わりです。」どんな顔で言ったのか分からないけど、声は震えている。
伝票を置いて、奥へ戻る友田さんの後ろ姿をようやく見ることが出来た僕は、向かいに座る桃里くんを睨む。
それなのに、平然とカップに紅茶を注いだ桃里くんは、それを煤って飲んでいた。
「・・・・どういうつもり?自分がした事忘れたの?」
小さく言う僕に
「忘れてませんよ。すごく良かったし、何度でもお願いしたいくらいです。」
そう言って口元が上がった。
「・・・・・・・・」
ゾクッとした。忘れかけていたのに、心の傷がぶり返す。
でも、一生懸命その後に友田さんが僕をきれいにしてくれた事を思い出す。
ガタツ と椅子を引くと、僕は伝票を手にして帰る仕度をした。
「あ、ボクも・・・・ボクの分は払いますから!」
桃里くんが同じように立ち上がると、椅子に掛けたコートを手にした。
でも、僕はどんどん先に歩いて行くと、レジの所で立ち止まる。
「友田、さん・・・」
レジを打つ人の横に、まっすぐ立っている友田さんは、身体の前でぎゅっと手を握っていた。よく見ると、指先は色が変わって紫色になっている。
レジの人は、ちゃんと僕と桃里くんの金額を分けてくれていた。
それぞれにお金を払う。
「ありがとうございました。」
「ごちそうさま、でした。」
僕は二人に言ったつもりだけど、友田さんの顔は見れなくて.....。
来たときとは違って、暗い気持ちでカフェを後にするなんて思ってもみなかった。
「どうも。」と言った桃里くん。
ドアに手を掛けて押し開ける。僕より先に一歩店から出たときだった。
「ちょっと来い!!」
後ろから桃里くんの腕を掴んだ友田さんが、通路の奥へと引っ張って行く。
「え!・・・・ツ」
僕の前をズンズン進んでいく二人を目で追うが、突然の事で身体は付いていけなかった。
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