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第123話

 僕の目の前を友田さんが桃里くんの腕を引っ張りながら歩いて行く。 突き当たりの階段を下へ降りて行くから、僕も慌てて後を追った。 二人が入って行ったのは、前に浩二さん達に連れ込まれ、友田さんと初めて出会った場所。相変わらず、破れたソファーと机だけの空事務所だった。 は、ぁ… は、ぁ… 階段を走って降りた僕の息があがり、事務所の中で対峙するふたりを前にしても、言葉が出てこない。 「やっぱりお前だったんだ?アユムに酷い事をしたの………」 「酷い事?!……アレって酷い事になるんですかね?」 桃里くんは、掴まれた腕を振りほどくと言ったが、僕の顔を見ると笑った。 「確かにね、いきなりで傷はつけちゃいましたけど、……案外気持ち良さそうでしたよね?」 「てめぇ!!!」 桃里くんの胸ぐらを掴んだ友田さんだったが、柔道をしていた桃里くんはびくともしない。 「友田さんッ…!!」 僕が叫んだ声と、 ダンッッ と床に叩きつけられた鈍い音が重なると、目の前でうずくまった友田さんは、膝を抱えながら、うぅぅ と呻いた。 はッ…! 息を飲んだ僕が駆け寄ろうとしたが、来るな。と言いたげに、伸ばした腕で僕を止める。 僕は、そこに立ち尽くしたまま動けなくなった。 「すみません、柔道やってたもので、反射的に投げちゃって。」 そう言うと、桃里くんがしゃがみこんだ。 桃里くんの方が大きいから、友田さんに勝ち目は無いんだ。ましてや、柔道をしていた彼は県大会迄いったことがある。 「…メて、やめて!!」 僕が桃里くんの背中を押し退けようとしたが、振り返りながら腕を掴まれ倒されてしまった。 「こんな細っこい腕で、ボクに向かって来るなんて……」 僕の腕をぎゅっと掴み直した桃里くんは、床に仰向けになった僕の上で、ニヤリと笑った。 その顔が目の前に来ると、僕は必死で横を向く。 同じ方向に顔を向けた桃里くんの唇が、僕に近づいた。 これ以上顔を背けられないというところまで横を向くが、なおも桃里くんはキスをしようとしてくる。嫌だ、友田さんの前では絶対見せたくない。僕は必死に拒んだ。 と、その時  バスツ/////// という音がすると、桃里くんが僕の上から転がって行った。 桃里くんの身体が消えて、床に倒れる僕の目に映ったのは、浩二さんと茶髪の二人組。 「何やってんだよオ・・・オレらの憩いの場で・・・・コイツ、誰?!」 浩二さんが転がった桃里くんの上に馬乗りになると聞いた。 さすがの桃里くんも、このデカイ二人には立ち向かわない。 誰が見ても、関わったらダメなタイプだから・・・・ 「謙ちゃん、腰痛めたの?」と言って友田さんの顔を見る。 「や、・・・多分足首。折れたかも。」 「えええ??ホントに?」 僕は焦った。 友田さんに怪我をさせるなんて・・・・・。 「アユムくん、コイツ誰?!」と、今度は僕に聞く。 僕は仕方なく、自分の後輩だと伝えた。 それを聞いて、浩二さんは「やっべツ。マジで?てっきり喧嘩売られてんのかと思ったよ。」という。 「おい、お前、なんでアユムくんを苛めてたんだよ。」 茶髪の人が、桃里くんの身体を起こしながら言った。 「先輩はボクのもんだ。誰にも渡さないツ!!」 閑散とした部屋の中に、桃里くんの声が響き渡り、僕らはみんなで目を見開いてしまった。

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