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第124話

 浩二さんの肩に摑まると、破れたソファーに腰を降ろした友田さんが、その横で立ち尽くす僕の手を握った。 さっき桃里くんが放った言葉をどんな気持ちで聞いたんだろう。 僕は、ギュっとその手を握り返したが、友田さんの顔は見れなかった。 「なんなの、この子。アユムくんの事好きなんだ?!」 茶髪が言って、浩二さんの方を見るが、笑顔はない。 「お前、男がいいの?健全な男子っぽいのに・・・」 「うるさいツ!ボクは、佐々木先輩が・・・・先輩がいいんだ。」 浩二さんの言葉に、強く反発して言った。 桃里くんにそういう事を言われても、僕は困ってしまう。 カワイイ後輩があっという間に変貌して、僕を組み敷いてしまう男になった。 好意を素直に受け止めるわけにはいかないのに・・・・・ 「桃里くん、僕は・・・・・」 言ってしまっていいんだろうか。僕と友田さんの関係を知らせることは、どこかで歪んだ感情を産んでしまわないだろうか。 僕が躊躇していると 「桃里くん、だっけ・・・アユムを好きになる気持ちは分かるけど、アユムはとっくに俺のものなんだ。俺たちは付き合ってる。」 友田さんは、僕の手を握り締めながら言った。 それに応えるように、僕も強く握り返すと、桃里くんの顔を見た。 「・・・ごめんね。僕が初めて好きになったのは、友田さんなんだ。僕の方から好きになった。だから、桃里くんの気持ちには・・・応えられないんだ。」 ゆっくり言葉を選んで言ったつもり。桃里くんを傷つけたい訳じゃない。 「・・ちっとも、うまくいかない・・・・」 「え?」 吐き捨てるように桃里くんが言うから、僕は聞き返した。 壁の前でグッと両手を握り締めて、顔を歪ませたその顔は、泣いているのかと思った。 「桃里、くん?・・・」と言って顔を見る。 「どいつもこいつも、そうやってボクをバカにする。」 桃里くんの頬を涙が伝った。 「バカになんかしてないよ。ただ・・」 「バカにしてるんだよ!!どうせ柔道でしか認めてもらえない。勉強なんて下の下で!」 僕の方を睨むように言う桃里くんは、今までに見た事のない顔をしていた。 鼻の頭を赤くして、眉間に寄せたシワに目が行く。 「怪我をして、試合に出られないと言ったら、初めは早く直せって、励ましてくれた。なのに、靭帯を痛めてしまって、もう柔道はできないって分かった途端、誰もボクに見向きもしなくなったんだ。」 「そんな・・・・・」 力なく言う僕の横で、友田さんがもう一度手を掴む。 その手を見ながら 「桃里くんが、そう感じた事を僕が違うとは言えない。でも、なんて声を掛けたらいいのか、分からなかったんじゃないのかな。ガンバレ、なんて言ったら悪いかな、とかさ。」 繋いだ手の温もりを感じながら、僕は続ける。 「人の気持ちは、その人自身でないと分からないだろ?桃里くんが自分の憶測でひとの心を決めつけたらダメだと思うよ。」 なんて、僕が偉そうに言えないんだ。僕も同じように心を閉ざしていたんだから......。 「柔道やってたんだ?!どうりでガタイ、いいもんな。ま、オレらに比べたら、まだまだ甘いけどさ!」と言った浩二さんの言葉に、少し笑顔が出る僕だった。

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