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第125話

 ヒンヤリと冷たい床を這って、桃里くんのやるせない気持ちが伝わってくるが、僕は真っ直ぐに前を向くと、桃里くんの顔を見た。 唇を真一文字に結んで、下を向くその頬には一筋の涙の跡が……。 「どうしてボクじゃダメなんですか?その人の為に、同じ高校へ行くんですか?」 桃里くんは僕の方へ向き直ると言ったけど、眉を下げた顔は今にも泣き出しそう。 「桃里くん・・・ダメとか、そういうんじゃなくて、」 「先輩だけは、普通に接してくれた。勉強の事も親身になって、参考書を選んでくれて・・・。ボクが海星学院に行けるのは、先輩がいるから。明日も会えるかもっておもうから.......。なのに、いなくなるんならボクはもう通う意味がない。」 僕の言葉を遮って言う桃里くんは、なおも切ない顔をする。 それでも、流されるわけにはいかない。 「ねえ、それってアユムの存在を柔道の代わりにしてるんじゃないのか?しかも、一方通行の。」 友田さんの言葉に、浩二さんや茶髪の人も、そうだな。という。 「お前はさ、出来なくなった柔道の代わりに、アユムくんを思うことで満たされようとしてんだよ。本気でアユムくんに惚れてるのとは違う気がする。」 そう言って、浩二さんが桃里くんに近づくと、彼の肩に手を置いた。ぽんぽんと軽く乗せる手は優しくて、そのままじっとしている桃里くんが子供っぽく見える。 「・・・・・・そんな・・・」 言いかけて、言葉を呑み込むと僕の顔を見た。 僕は、目を逸らさずにじっと彼の顔を見て、うん、と頷く。 浩二さんの言った通りだと思った。 僕が、友田さんの側に居たいと思う気持ちと、どこか似ているのかもしれない。 自分がまっすぐ前を向いて歩くために、必要としている.........。 ただ、それは何かを埋めるためじゃない。 いつか、友田さんと同じ目線でものを見て、互いに大きくなるために支え合いたいんだ。 「僕に話しかけるように、他の子にも話してごらんよ。柔道が強いとか関係なしに、きっといい友達ができる筈。だって、もともとが素直で優しい性格なんだからさ!」 「・・・はい。」 うな垂れてはいたけど、返事をする口元は少しずつ緩んできた。 その表情で、僕は一応ホッとする。 友田さんと繋いだ手の力も抜けた。 「じゃあ、帰るか!・・・あ、謙ちゃんの足首・・・」 茶髪の人が言うと、友田さんの足元に屈んだ。そうして靴下を脱がせると、じっと見ている。 「どう?」 「ん~・・・紫色になってるけど、そんな腫れては無いから、骨まではいってないだろ。取り合えず、帰るんならおんぶしてやるけど?!」 「や、おんぶはちょっと・・・・」 恥ずかしそうに友田さんが首をひねった。 茶髪におんぶされてるのを想像したけど、周りからはきっと拉致されているのかと思われるだろうな。 「僕が肩を貸すから、歩いて帰りましょう。」 「・・・うん、そうする。」 友田さんが笑顔で返事をしたから、ホッとする。 「すみませんでした。」と、深々と頭を下げて、桃里くんが謝った。 「いいよ、俺が受け身の授業サボったのがいけなかったんだ。もろに足をぶつけちゃって。」 友田さんも、桃里くんに言うと、二人のわだかまりも少しだけ薄らいだみたいだった。

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