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3. 魔女のカナリア
必要な物だけが置いてある、質素な小屋だ。キッチンとテーブルと棚と、ベッド。
人間の青年を森の外へと放り投げたロゼは、今度は美しいカナリアをベッドの上へ放り投げた。歪みのない長い金糸がベッドに広がり、起き上がろうとする肢体を、ロゼは強い力で押さえ付ける。カナリアは柳眉を寄せた。
「ロゼ、い、痛い……」
「いつまでその演技をするつもりだ。あまり好まん」
「……お嫌いでした?」
寄せた眉根は、すぐにほどかれる。
カナリアはすっかり平気そうな顔をして、ロゼの頬にするりと指を這わせた。
「大男に手籠めにされるか弱い薄幸の美青年……っていう設定だったのですけれど」
「普通でいい」
「ふふ、あなたってそういうとこ、つまらない」
指はロゼの頭の後ろへ。自ら引き寄せた唇へ、カナリアは触れるだけのキスを与える。細められた目も、口角を上げた口元も、妖艶な仕草も全てがあの脆弱な人間の青年の前で見せたものとは別物だ。
聖母が一瞬で、悪魔に変わる。
「楽しませてあげようとしてるのに」
「だから、そのままでいいと言っているんだ」
「そのままって?」
「……そのままだ」
また何か言いそうな口を、ロゼは親指で押さえて、唇を重ねる。今度は触れるだけでは許さなかった。覗いた赤い舌に舌を絡ませて呼吸を奪う。激しい交わりは淫らに濡れ、混ざった唾液が銀糸を引いた。それを舐めとるカナリアの、瞳に滲む熱い肉欲。
「悪趣味な人」
「何とでも言え。……私は魔女だからな」
ロゼの中指がカナリアの喉から胸へと滑らされる。途端に黒い風がカナリアの身体を包んだ。
それが晴れた時には、重苦しいローブなど溶けて消えてしまって。
一糸まとわぬ姿で、麗しい青年は妖艶に微笑む。
「そのままの俺を愛してくださるって言うの、森の魔女さん?」
「もう黙れ、興が醒める……」
「ふふ、興奮しているくせに。いいですよ、こんな阿婆擦れがお好きなら」
長い脚はロゼの腰に。唇で次のキスを強請って、指先は明確な欲の蕾へと。
「お望みのままに、好きして」
彼らは淫蕩な欲に溺れていく。
―――
簡素なベッドが悲鳴を上げている。それは愛らしいカナリアの嬌声と淫靡なハーモニーを奏でる。さんざん奥を突かれて中に欲の白濁を撒き散らされたカナリアは、今はまろい尻だけを高く上げた状態で拘束されていた。
「あんっ、ほんとに、あくしゅみ、なんだから……っ」
腕や脚に、そして腰を上げたまま下ろせないように、カナリアの身体は黒い紐のようなもので卑猥に縛り上げられている。ベッドや壁に繋がったそれは、いくらカナリアが哀れな身体を動かそうとも外れることはない。背でまとめられた両腕。両の太腿にまとわりつく拘束は左右にぴんと張って、足を閉じられないようにしている。腰は天井から吊り下げられている状態だ。
どうにもならない体勢で、カナリアは後ろから休みなく、肉棒で突かれ続けていた。
「ひぅ、ん、んんっ、あ! ろぜ、ぁ、はげし、い」
「好きにしろと、言ったのは、お前だろうっ」
「い、いった、ぁんっ、いったぁ。おれ、いっちゃった……」
「それはどっちの意味だ?」
もはや縛られた身体は常にびくびくと震えている。イきっぱなしだ。絶頂を繰り返して快楽の栓が外れている。繰り返し襲い掛かる波に溺れて、しかしカナリアはそれらを余すことなく食らう。背を反らして感じ入り、腰を揺らしてもっともっとと誘う。
ロゼはぱちんと指を鳴らした。すると黒い紐がもう一本しゅるりと伸びて、
「ぁ、ああ! や、これ、ぅ、ん、ひどいぃ……っ」
カナリアの花芯の根元を戒めた。
こんなことをしなくても、カナリアはさっきから女のような絶頂に身を浸していた。だから意味はあまりないのだが、昂るのは気分だ。一つも自由にならない身体の、男の機能まで奪われた。雌に堕とされる。ロゼだけの、淫らな雌に。
「色狂いの、お前には、ちょうど良かろう」
「あ、あ、ろぜ、もっとついて」
「ここだろう?」
「ひんっ、そこぉ……! は、ぁっ、ろぜ、ろぜ、なか、なかで……っ」
「ああ、全部中で出してやる。ははっ、お前の腹が、私のもので、裂けてしまうかもしれないな?」
「あぁ、それ、すごいっ」
もう随分な量を、ロゼはカナリアの中で弾けさせている。乾燥した手の平で撫でたカナリアの腹はわずかに膨らんでいた。一発目からの精液が全てこの中だ。何度出したか、二人とも数えてなどいない。絶倫という言葉で片付けるにはあまりにも早いペースで、常識はずれの量を。
二人の間に立ち込める熱気が発汗を促す。ロゼの額から落ちた汗が腰を打つ刺激にさえカナリアは震えた。腰を掴まれてがつがつと最奥を穿たれ、半狂乱になって首を振る。
「イっちゃう、イっちゃうぅ」
「今さら、勝手にイけ……!」
「は、ん、ぁああ……っ」
「ぐ……っ」
二人は同時に達した。戒められていなくとも、カナリアにはもう出せるものなどない。対してロゼはどくどくと、カナリアの中にまた欲を吐き出した。生々しい感覚にカナリアは喘ぐ。爪先がぴんと伸びて、それがゆっくりと弛緩する。
ロゼはようやく、自らの肉棒を引き抜いた。カナリアを拘束していた黒の紐も滑らかに解けていく。ベッドに落ちたカナリアは、赤い顔と蕩けた瞳で振り向いた。息を乱しているのはお互いに。
「おしまい……?」
「ああ」
注がれ過ぎた後孔から、どろりと白いものが溢れ出る。カナリアは腹の中で動くものに身を震わせながらも、もったいないとばかりにまた尻を上げた。ロゼの目の前に晒された緩み切った穴と、汗ばんだ尻。ロゼは平手でそれを叩いた。
「ぁんっ」
「尻穴に何か挟んでいないと垂れ流すのかお前は」
「うう、いじわるぅ……」
「ふ、嫌いになったか? ん?」
ロゼはカナリアの背に覆い被さる。下肢に当たる怒張と、耳元で囁かれる掠れた声に、カナリアはぞくぞくと背に走る快感に耐える。
「ん……すき……」
「それでいい」
「ぁ……」
こめかみにキスを落とされて、カナリアは唇にと強請った。願いはすぐに叶えられる。それで満足したのか、カナリアはゆっくりと身体をベッドに沈めた。
ぽこりと膨らんだ腹を、愛おしそうに撫でる。
「ふふ、ぜんぶ、ロゼの……」
「満足か?」
「はい……。今日も、ごちそうさま」
わざとらしい舌なめずり。
肉欲に溺れたカナリアの瞳が一瞬、血よりも鮮やかな赤に染まった。
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