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第27話

ついて来ようとする王弟を部屋に残し(彼がいるとややこしい事になるのが必至なので)フェリックスは弟と共に竜舎へと急いだ。途中の厩舎でローザリンデの愛馬を確認し、竜舎の扉を開けた。 そこでのレオンとローザリンデのやり取りを目にし、フェリックスは額を押さえ、ジークムントは肩を落とした。 「あーあ、やっぱりブラッドに目をつけたか」 ジークムントは大きな溜め息をついた。 「団長、どうしてここに?」 「ジーク…と、オイレンブルク侯、ご無沙汰致しております」 自分の方へ引き寄せようと掴んだブラッドの腕から手を離さず、ローザリンデは入り口のフェリックスに挨拶をした。 「砦を離れて大丈夫なのですか?」 「私より遥かに優秀な部下がおります故。頭がおらぬ方が自由に行動出来て良かろうかと」 そうなのか、とフェリックスが弟を見た。ジークムントはとんでもない、と首を横に振った。 「副団長は必至に止めたと思います……が、聞くような団長ではないので」 後が怖いです。ジークムントが小さく呟いた。お前が竜を連れて帰るのが遅いからだと雷が落ちる覚悟を決めた。 「これから、すぐにでも竜を連れて砦へ立つ予定だったのですが」 「グリューンが卵を抱いていると知らせが来たから様子を見に来た」 夜明け前に、手紙を括りつけた鳩をジークムントは砦に向けて飛ばしていた。砦から城までの距離は馬で半日。鳩が砦に着いてすぐに出発したようだ。 「卵はいつ孵るのだ?」 「二、三日くらいだ」 答えたのは、ブラッドを抱えたままのレオンだった。 「もっと早くならないか?」 「無理だ」 「他の竜に代えられないのか」 レオンは大きく頭を振った。 「そんなことをしたら、卵は死んでしまう」 嘘、とレオンの腕の中でブラッドが躰を硬くした。 「一度、竜と卵の間に魔力の道が繋がったら切ってはならない。切れた瞬間から卵は石化していく。伝説の竜石を作りたいのなら、グリューンから卵を離せばいい」 絆を結んだ相手がする事に、竜は逆らったりしない。強固な信頼を寄せているからだ。 「ふむ。グリューンは動かせないな」 ローザリンデの言葉に、ブラッドはホッと胸を撫で下ろした。 ローザリンデは顎に手を当てて思案した。片方の手はブラッドの腕を掴んだままだが。 「取り敢えず、ジークムントは騎士団の竜を連れて砦へ戻れ。私はグリューンの様子を見て考える」 「承知致しました」 ジークムントはローザリンデに敬礼をし、竜舎を出た。 「辺境伯、状況を訊いても?」 「隠す事ではないな。砦の対岸に北方軍の増援が確認されたのだ。それで用心を兼ねて、竜による編成部隊を見える位置に配置しようと思うてな」 相手側にも竜はいる。 ただ、小競合い程度に竜を投入するとは、通常であれば考えられない。竜を所有するのは大金がかかる。卵の購入、維持、調教費だ。 中平原に穀物倉を抱え、西に貿易に有利な湾をいくつか所有しているからこそ、この国は他国より多くの竜を養えるのだ。 海側は断崖絶壁が続き、平地よりも山岳地帯が占める面積が多い北方の国に、竜を数多く所有出来るかは疑問なのだが。 「ところで、いつまでブラッドの腕を掴んでいるつもりだ?」 レオンが凄んだ。 「お主、ブラッドの何なのだ? 念者か?」 「なっ……」 「ねんじゃって?」 ブラッドがレオンを見上げた。前髪の間から覗く瞳は澄みきっていた。説明しようがない。背中に汗が流れる。 「その様にブラッドを抱え込みおって、違うのなら、私が連れて行っても構わぬだろう」 「構います」 フェリックスが割って入った。 「ブラッドを城に連れて来たのは私です。ブラッドに関しての話し合いは、私を通していただきましょう」 フェリックスは大真面目に言った。

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