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第32話

レオンは己の失態に、自分で自分の頭を棍棒で殴りたくなった。決して知られてはならない事だったのに。 否。 ブラッドは覚えていた。 ≪公子、迂闊≫ グリューンが責める。卵に顔を擦り寄せながら、レオンに呆れた視線を送る。 黙っててくれ、と心話で話し、グリューンの前に篭を置いてレオンはブラッドに向き直った。 零れ落ちそうな瞳を潤ませ、真っ直ぐブラッドがレオンを見上げていた。澄んだ瞳に気圧される。ごまかしは通用しないだろうな。いや、赦さないだろう。 「レオンはぼくの事を知ってるんだよね…?」 「…最初から確信してた訳ではないが…」 「どういうこと?」 レオンから答えを聞くのが怖い。それでも、何か知っているなら教えて欲しかった。出自が全く分からないという事は、ブラッドにとって地に足がつかない中途半端な状態なのだ。 「今は…、詳しい事は言えない」 「どうしてっ!?」 ブラッドはレオンの胸にしがみついた。 「言えないって事は、ぼくは要らなくて、捨てられた事!? 裸で神殿の前に捨てたのは、死んでも構わないからで…」 「違う!」 レオンは思わずブラッドを抱き締めた。 「お前は望まれて生まれてきたんだ」 「じゃあ、どうして、ぼくは捨てられたの!? 要らないからでしょ!?」 レオンの胸に顔を埋めてブラッドは叫んだ。 「ブラッド、頼む、落ち着いてくれ。卵に影響が出る」 はっとして、ブランドは躰を硬くした。 「ご、ごめんなさいっ、ぼく……大きな声出したりして……」 レオンはブラッドを抱く腕に力を込めた。細い肩が震えていている。 「違うんだ、ブラッド。お前が不安定になると、竜が影響を受けるんだ」 「どういう…こと…?」 レオンはブラッドを抱き締めていた腕をほどいて、涙を滲ませている瞳と視線を合わせた。 「レ、レオン、その眼は……」 レオンの瞳の中心が金色に縦長になっており、周りの蒼はオパールのように輝いていた。 恐ろしいほどの神々しさだ。 ブラッドの足が、自然と一歩下がる。無意識にレオンから離れようとするが、肩を掴んだ手がそれを赦さない。 こくり、と息を飲む。 恐怖ではない。研磨され輝いている宝石のように美しい瞳に魅了されているのだと、ブラッドは気づいた。 その瞳がゆっくり近づいてきた、と思ったら唇に温かい柔らかなものが重ねられた。レオンの唇だった。反射的に離れようとすると、後頭部を大きな掌で固定され、唇接けはますます深くなっていく。 ブラッドの唇を味わうようにレオンは下唇を食んだり、舌を這わせたりした。下腹が、淡い熱を帯びる感覚にブラッドの頭は痺れ、思考が散漫になっていく。 吐息が奪われつくし、ようやく唇が解放されたとたん、ブラッドの両足から力が抜け、レオンに躰を預けたまま意識を手離した。 腕の中でぐったりと意識を失ったブラッドを抱き上げ、レオンは自分用の簡易寝床にそっと横たわせた。 ≪公子……≫ グリューンの非難めいた口調に、レオンは子供っぽく口を尖らせた。 「つい……我慢出来なくて……」 竜相手に言い訳したが、あの潤んだ瞳で見つめられて我慢が出来なかったのは事実なので、ばつが悪かった。 ブラッドの傍らに腰を下ろし、意識の無い顔を見つめた。その瞳は通常の深い蒼に戻っていた。 レオンは、いブラッドの目を隠している前髪をそっとかき上げた。長い睫毛に雫が光っていた。 罪悪感が込み上げた。が、胸は僅かに甘く疼いていた。 撫でている髪の所々が湿っていた。 「何かあったのか……?」

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