48 / 156

第48話

二人がかりの攻撃を同時に剣で受け止め、跳ね返す。相手の剣を折るつもりでした攻撃を受け止めただけでなく、躰が反るくらい押し返され、男たちは驚愕した。 レオンは長身だが、男たちは更にその上に頭がある。ましてや、力押しの筋肉質には見えないこの青年のどこに、自分たちを押し返す膂力があるのか。 レオンの背を狙って、残っていた男がかぶり振った。 「レオン…っ」 ブラッドが名を呼ぶ前に、レオンは二人を押し返した剣を返して受け止めた。そのまま刃に絡ませて男を前のめりに体勢を崩させた。隙だらけになった背に踵を落とす。 息を詰めて膝をついた男の腹を、今度は容赦なく蹴り上げる。男は大きく吹っ飛び、地響きを立てて背中から落ちた。 体勢を整えた男たちが両脇から襲いかかってきた。 予備動作もなく、レオンはブラッドを抱きかかえたまま男たちの頭上を飛び越えた。一人の後ろに降りたと同時に首の後ろに剣の柄を叩き込んだ。 声も無く倒れる男に構わず、残った一人に剣を振るう。慌ててレオンの剣を受け止めた男の顔が強張る。 重い。 熊の一撃を受けたようだ。剣を持つ手が痺れた。 レオンは休まず剣を次々と繰り出す。斬る。払い、突く。いなし、返す。 男の息が上がる。対してレオンはブラッドを抱えながらも、息一つ乱さない。 やけっぱちで繰り出してきた攻撃をかわし、膝を男の腹にめり込ませた。男は白眼を剥いて倒れたまま、ぴくりとも動かない。 レオンの首にしがみついたまま、ブラッドは唖然と倒れた男たちを見回した。 あっという間だったと思う。 「怪我は無いか?」 「う、うん。大丈夫、ありがとう」 「そうか…」 それでも、レオンはブラッドをそっと下ろした。 「ブラッド、そついらのベルトを外してくれ」 「え?」 「ちょっとやそっと、殴っても蹴っても起き上がれないくらいに伸してあるから、多少、乱暴に扱っても平気だ」 言いながら、レオンは意識を失った男二人を軽々と担いで、五人をひと塊に置いた。ブラッドが外したベルトをレオンに渡す。レオンは残りの三人のベルトを外し、それで男たちの腕を縛った。 「ふむ…」 少し考えて、レオンは更に男たちのズボンを足首まで下げた。 「なっ、何をしてるのっ?」 「こうしておけば、足に絡まって歩けないだろう?」 「そ、そういう事……?」 「まぁ、ちょっと…かなり見苦しいけどな。騎士団か自警団に連絡しに行く間に逃げられたらムカつくし」 口をわずかに尖らせ、レオンは男たちの武器をひと纏めにして道の脇に放り投げた。 「うん…? 血の臭いがする…」 レオンの言葉に、ブラッドがハッとして顔を上げた。 「アルベルト様が…騎士様が傷を負っていて、動けないんだっ」 ブラッドを再び抱え上げ、レオンは血の臭いのする方へ向かった。剣で枝を払いながら、大股で迷いなく進む。 程なくして、藪が不自然に固まっている場所を見つけた。不自然に見えないよう工夫をしてあるが、山を歩き慣れた者にはすぐに分かる。 ブラッドが施したのだろう。可愛いな、と思いながらブラッドを下ろした。 「アルベルト様っ」 アルベルトに被せていた藪を除くと、木に凭れて意識の無い黒髪の青年がいた。呼吸も脈も弱い。 足の矢傷を見て、ブラッドが声を上げた。 「レオン、さっきの人たち、弓を持っていなかった…」 周囲を見渡した後、レオンはブラッドに安心させるように微笑んだ。 「気配は無い。大丈夫だ」 アルベルトの傷を一通り確め、レオンはブラッドに向き直った。 「ブラッド、これから俺がする事は内緒だぞ」 「う、うん…?」 ベルトに差していた小刀を取り出し、刃を左の掌に走らせた。赤い線が出来たかと思うと血が吹き出た。 「レオンッ?! 何を……っ」 レオンは血が吹き出ている手を握って、蒼白になったブラッドを見た。 「ブラッド、覚えておけ。竜人族の血の効果は絶大だ」 薬屋でユリウスが言っていた事を思い出した。 「万能薬とか、不老長寿とか……?」 「人間界には、そんな風に伝わっているらしいな。…但し、劇薬だ」 「毒…って、言う事…?」 「普通の人間には、な。だが、竜と絆を結んだ竜騎士には万能薬だ」 レオンはアルベルトの顔を仰向かせ、彼の口に自分の血を滴らせた。僅かに、アルベルトの喉が動いた。 途端にアルベルトの顔色が劇的に変わった。 それを確認し、レオンはアルベルトの太腿に刺さっていた矢の残骸を抜いた。一瞬、血が吹き上がるが、直ぐに止まった。 「レオンッ、手を…っ、手当てしないと……」 左手をひと振りして血を払い、掌をブラッドに向けて開いた。 「えっ…?」 掌にあった小刀でつけた傷は、薄らと赤い線がある程度になっていた。 「あんまり飲ませて全回復したら、不自然だろう? 竜騎士には俺たちの血は、効果絶大だ」 確かに、虫の息だったアルベルトの呼吸も安定し、蒼白だった顔に赤みが差している。 「うっかり、血を舐めさせたりするなよ? 普通の人間だったら死ぬし、竜騎士だったら能力倍増だ」 血が完全に止まったのを確認し、レオンはアルベルトを右肩に担いだ。 「ここからは、街の方が近そうだな」 人を担ぎながらも軽々と立ち上り、レオンはブラッドに空いていた手を伸ばした。ブラッドは素直にその手を握った。そのまま引っ張られて立つと、レオンはブラッドを抱き上げた。 「な、な、何をするのっ?」 「本当はむさい男なんか、出来れば担ぎたくないんだ。片方に可愛い子を抱いてなきゃ、放り投げたいくらいだ」 「えぇ?!」 何だろう。 レオンの印象が最初と全然違う。口を尖らせたり、拗ねた口調になったり……何だか、可愛い……。 ブラッドの視線を感じ、レオンは頬を少し赤くして顔を逸らした。

ともだちにシェアしよう!