78 / 156
第78話
腕の中のブラッドが完全に手に入ったのだと確信すると、躰の奥から悦びが溢れ、レオンは沸き上がる衝動を止められなかった。
口接けを深くし、ブラッドの息さえも吸い取った。息苦しさに開いた歯列を割り、縮こまった舌を絡め取る。
絡め、吸い、軽く噛み、また絡める。
抵抗が無いのを良い事にレオンの唇と舌は遠慮が無くなり、音を立てて吸い、ブラッドの唇を食んだりした。
「…あっ…、や…だ……、ん…っ」
抗議は小鳥の囀ずり程度。レオンはブラッドの髪を項から掻き上げ、耳朶を摘まんだり、引っ掻いたりした。途端にブラッドの腰から背中にかけて、ぞくぞくした感覚が走った。それは悪寒に似ていたが、決して嫌な感覚では無かった。
寧ろ、もっと触って欲しい、と、はしたなく思ってしまった。
躰が熱く火照り、黙って座っていられなくなってきた。膝を擦るように動かしていると、レオンがブラッドの両脚を膝裏から掬い上げ、自分の上に横抱きにして座らせた。
ブラッドの前髪を掻き上げ、汗ばんだ額に口接けると、潤んだ瞳と眼が合った。
恥ずかしさに、すぐに眼を伏せてしまったブラッドの唇に、レオンは自分の唇を重ねて味わった。いくら味わっても、味わっても、味わい尽くす事の無い、魅惑の唇だ。
必死でレオンに応えていたブラッドは、呼吸が吸い取られそうな感覚に眩暈を覚え、思わずレオンの胸にしがみついた。侵入してきた舌が歯列の裏をなぞり、上顎を舐めた。
その瞬間、首筋がぞくぞくし、肩を竦めた。
飲み込み切れない唾液が溢れ、顎を伝い、喉を滴り落ちた。それをレオンの舌が追っていく。
「あっ……」
気がつくと、服の裾からレオンが手を入れて、ブラッドの肌を直に撫でていた。熱い掌に擦られ、ブラッドは吐息を吐いた。
服をたくし上げ、レオンは薄い胸のささやかな突起を摘まんだ。
「? な、何っ…?」
ブラッドは服の上からレオンの手を止めようとしたが、それは弱々しく、力が入らずに震えるだけだった。同時に腰の奥が熱くなり、中心が凝ってきた。
尿意に似た感覚が沸き上がり、ブラッドは焦った。
「レ、レオン……、あ、の……」
「うん?」
レオンは手を止めず、両方の突起を摘まんだり、押し潰したりした。そうすると、ますます中心は熱く固くなり、何かが中から溢れそうになった。
「んっ…、だめ、だよ……」
抗議を無視し、レオンは ブラッドの下着ごと脚衣をするりと脱がしてしまった。
「えっ?!」
咄嗟の事で止めようが無かった。
レオンは、健気に立ち上がっているブラッドの雄蕊を緩く握って、下から上へと扱いた。
初めての感覚にブラッドは声も無く、止める事も忘れてレオンのなすがままだった。自分の雄蕊を刺激するレオンの手を見つめたまま、尿意に似た感覚が強くなる事に焦っていた。
( どうしよう、どうしよう、どうしよう……)
レオンは片手で雄蕊を扱き、もう片方の手で蜜を溢す先端を刺激した。親指で擦り、薄く被っている皮を捲る。
「だめっ……。レオン、ぼく、何だか、変っ…」
「何が?」
優しく訊ねながらも、レオンの手は止まらない。
「お、おしっこ、したくなった……っ」
真っ赤になってブラッドは訴えた。
「漏らしてもいいぞ? 俺は構わない」
「ええっ?!」
くすりと笑ったが、レオンに止める気は無い。
(本当に、真っ更なんだな。可愛いすぎるぞ)
ブラッドは閉じた膝を擦って衝撃を遣り過ごそうとするが、溢れ出そうとする感覚は強くなってくる。止めて欲しいと涙眼で見上げると、レオンは逆に嗜虐心を煽られたようで、先端への刺激は強くなった。
「うっ…ん……」
雄蕊は硬く立ち上がり、溢れた蜜がレオンの手を濡らし、動く度に水音を立てる。
(熱い……)
躰の奥が炙られたように汗が吹き出てきた。
はだけられ、あらわになった胸の突起が芯を持って凝り、存在を主張し始めた。意識が飛びそうになるが、先端を弄られる刺激がそれを留める。
「う…んっ……」
頭を振って刺激を遣り過ごそうにも、レオンの手がそれを赦さない。
「もっ……、離し…て…」
レオンは聞こえない振りをして、ブラッドの先端の皮を引っ張って…破った。その途端、ブラッドは声にならない悲鳴を上げて、先端から白い蜜を吹き出した。
(ど、どうしよう……。お漏らししちゃったよ)
荒い呼吸でブラッドは涙を滲ませて、脱力した躰をレオンの胸に凭れさせた。真珠の粉を叩いたように白く輝く肌を薄紅色に染め、ブラッドの躰は凄絶な色気を放っていた。
レオンはごくりと喉を鳴らし、大きく胸を上下させているブラッドを寝台に押し倒した。荒い呼吸を繰り返す唇を宥めるように啄む。
「んっ…、ん……」
お互い、軽い音を立てて啄み合う。
レオンは片手でブラッドの両手を頭上で纏め上げ、腋窩に舌を這わせた。擽ったさに身を捩り、ブラッドは舌から逃げようとした。
自然の成り行きで、レオンは押さえていた手に力を込めた。……それだけだった。
ところが、ブラッドの躰が硬直した。
一気に熱が引いて、汗が冷たくなった。
「ブラッド?」
レオンはブラッドを見下ろした。
大きな眼を何度か瞬きし、レオンを見上げた。本人にも、躰の変化に戸惑っているようで、大きく喘いだ。
「…や、だっ」
「ブラッド?」
再度名前を呼んだが、ブラッドには聞こえていないのか、激しく頭を横に振った。
「怖い……。やだ、こ…いで……」
ほんのり染まっていた顔が蒼白になり、表情が強張っていた。
「どうし……」
(怯えている? 俺を?)
心配げに見下ろすレオンが、ブラッドには自分を襲った男達と重なって見えていた。抵抗する気力が無くなるまで暴力を振るわれ、手足を拘束された時の恐怖が甦っていたのだ。
レオンが 手を解放した途端、ブラッドは寝台を降りて部屋を出ようと扉へ向かった。
「ブラッド!」
レオンは素早くブラッドの躰を抱き上げ、寝台に戻した。
「い、嫌っ! 放し、てっ……!」
夢中で暴れるブラッドを抱え込む。
「違うっ…。ぼくは、何もしていない。殺さないで……」
その言葉で、ブラッドが城の竜舎で襲われた事を思い出した。
「…大丈夫だ、ブラッド。今、お前を抱いているのは、俺だ。レオンだ…」
レオンは敢えてゆっくりと喋り、ブラッドの背中を撫でた。
「もう、何もしないよ。大丈夫、怖くない。お前を傷つける者はいない」
抱き締める腕から逃れようと暴れていた躰から、徐々に力が抜けていった。自分を抱き締め、優しく撫でている手が誰なのか、漸く思い出したらしい。
「…レオン……?」
「そうだ。俺だ、レオンだよ」
良く見えるようにブラッドの顔を両手で挟んで眼を合わせた。怯えて潤んでいた瞳がレオンを認識し、自分の顔を挟んでいる手に自分の手を重ねた。
「レオン、ぼく……」
「分かってる。何も言わなくて良い。ゆっくり呼吸して落ち着こうか」
「ん……」
深呼吸を繰り返し、改めて自分が誰の腕の中にいるかを確めた。
(大丈夫、怖くない。レオンは、絶対にぼくを傷つけないもの)
そう確信すると、今度は自分がレオンから逃げようとした事を思い出し、別の意味で蒼白になった。
「ご、ごめんなさい、レオン。ぼく、何て事を……」
「良いんだよ。構わない。俺の方こそ乱暴にして悪かった」
違う。
レオンはずっと優しかった。
傷つけたりしなかった。
「ごめんなさい……、ごめ……っ。酷い事言った……」
(レオンがぼくを殺す筈ないのに……!)
レオンは泣きじゃくるブラッドの背中を撫で続けた。
漸く落ち着いた頃、レオンはブラッドの服を整え、横たわせて毛布を掛けた。こめかみに口接けを落とし、髪を優しく撫でる。
「レオン……」
一緒に横になり、ブラッド頭を自分の腕に乗せて安心させるように微笑んだ。
「さぁ、眠ろう。大丈夫。もう、怖い事は起こらない」
「うん……」
涙で濡れた睫毛が閉じられると、程なくして小さな寝息が聞こえてきた。額に被さっている赤毛を掻き上げ、瞼に軽く口接けた。
(あいつら、ぶっ殺しておけば良かったな。今から殺しに行こうか……)
愛しい少年を腕に抱えて、レオンは物騒な事を考えていた。
ともだちにシェアしよう!