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第78話

腕の中のブラッドが完全に手に入ったのだと確信すると、躰の奥から悦びが溢れ、レオンは沸き上がる衝動を止められなかった。 口接けを深くし、ブラッドの息さえも吸い取った。息苦しさに開いた歯列を割り、縮こまった舌を絡め取る。 絡め、吸い、軽く噛み、また絡める。 抵抗が無いのを良い事にレオンの唇と舌は遠慮が無くなり、音を立てて吸い、ブラッドの唇を食んだりした。 「…あっ…、や…だ……、ん…っ」 抗議は小鳥の囀ずり程度。レオンはブラッドの髪を項から掻き上げ、耳朶を摘まんだり、引っ掻いたりした。途端にブラッドの腰から背中にかけて、ぞくぞくした感覚が走った。それは悪寒に似ていたが、決して嫌な感覚では無かった。 寧ろ、もっと触って欲しい、と、はしたなく思ってしまった。 躰が熱く火照り、黙って座っていられなくなってきた。膝を擦るように動かしていると、レオンがブラッドの両脚を膝裏から掬い上げ、自分の上に横抱きにして座らせた。 ブラッドの前髪を掻き上げ、汗ばんだ額に口接けると、潤んだ瞳と眼が合った。 恥ずかしさに、すぐに眼を伏せてしまったブラッドの唇に、レオンは自分の唇を重ねて味わった。いくら味わっても、味わっても、味わい尽くす事の無い、魅惑の唇だ。 必死でレオンに応えていたブラッドは、呼吸が吸い取られそうな感覚に眩暈を覚え、思わずレオンの胸にしがみついた。侵入してきた舌が歯列の裏をなぞり、上顎を舐めた。 その瞬間、首筋がぞくぞくし、肩を竦めた。 飲み込み切れない唾液が溢れ、顎を伝い、喉を滴り落ちた。それをレオンの舌が追っていく。 「あっ……」 気がつくと、服の裾からレオンが手を入れて、ブラッドの肌を直に撫でていた。熱い掌に擦られ、ブラッドは吐息を吐いた。 服をたくし上げ、レオンは薄い胸のささやかな突起を摘まんだ。 「? な、何っ…?」 ブラッドは服の上からレオンの手を止めようとしたが、それは弱々しく、力が入らずに震えるだけだった。同時に腰の奥が熱くなり、中心が凝ってきた。 尿意に似た感覚が沸き上がり、ブラッドは焦った。 「レ、レオン……、あ、の……」 「うん?」 レオンは手を止めず、両方の突起を摘まんだり、押し潰したりした。そうすると、ますます中心は熱く固くなり、何かが中から溢れそうになった。 「んっ…、だめ、だよ……」 抗議を無視し、レオンは ブラッドの下着ごと脚衣をするりと脱がしてしまった。 「えっ?!」 咄嗟の事で止めようが無かった。 レオンは、健気に立ち上がっているブラッドの雄蕊を緩く握って、下から上へと扱いた。 初めての感覚にブラッドは声も無く、止める事も忘れてレオンのなすがままだった。自分の雄蕊を刺激するレオンの手を見つめたまま、尿意に似た感覚が強くなる事に焦っていた。 ( どうしよう、どうしよう、どうしよう……) レオンは片手で雄蕊を扱き、もう片方の手で蜜を溢す先端を刺激した。親指で擦り、薄く被っている皮を捲る。 「だめっ……。レオン、ぼく、何だか、変っ…」 「何が?」 優しく訊ねながらも、レオンの手は止まらない。 「お、おしっこ、したくなった……っ」 真っ赤になってブラッドは訴えた。 「漏らしてもいいぞ? 俺は構わない」 「ええっ?!」 くすりと笑ったが、レオンに止める気は無い。 (本当に、真っ更なんだな。可愛いすぎるぞ) ブラッドは閉じた膝を擦って衝撃を遣り過ごそうとするが、溢れ出そうとする感覚は強くなってくる。止めて欲しいと涙眼で見上げると、レオンは逆に嗜虐心を煽られたようで、先端への刺激は強くなった。 「うっ…ん……」 雄蕊は硬く立ち上がり、溢れた蜜がレオンの手を濡らし、動く度に水音を立てる。 (熱い……) 躰の奥が炙られたように汗が吹き出てきた。 はだけられ、あらわになった胸の突起が芯を持って凝り、存在を主張し始めた。意識が飛びそうになるが、先端を弄られる刺激がそれを留める。 「う…んっ……」 頭を振って刺激を遣り過ごそうにも、レオンの手がそれを赦さない。 「もっ……、離し…て…」 レオンは聞こえない振りをして、ブラッドの先端の皮を引っ張って…破った。その途端、ブラッドは声にならない悲鳴を上げて、先端から白い蜜を吹き出した。 (ど、どうしよう……。お漏らししちゃったよ) 荒い呼吸でブラッドは涙を滲ませて、脱力した躰をレオンの胸に凭れさせた。真珠の粉を叩いたように白く輝く肌を薄紅色に染め、ブラッドの躰は凄絶な色気を放っていた。 レオンはごくりと喉を鳴らし、大きく胸を上下させているブラッドを寝台に押し倒した。荒い呼吸を繰り返す唇を宥めるように啄む。 「んっ…、ん……」 お互い、軽い音を立てて啄み合う。 レオンは片手でブラッドの両手を頭上で纏め上げ、腋窩に舌を這わせた。擽ったさに身を捩り、ブラッドは舌から逃げようとした。 自然の成り行きで、レオンは押さえていた手に力を込めた。……それだけだった。 ところが、ブラッドの躰が硬直した。 一気に熱が引いて、汗が冷たくなった。 「ブラッド?」 レオンはブラッドを見下ろした。 大きな眼を何度か瞬きし、レオンを見上げた。本人にも、躰の変化に戸惑っているようで、大きく喘いだ。 「…や、だっ」 「ブラッド?」 再度名前を呼んだが、ブラッドには聞こえていないのか、激しく頭を横に振った。 「怖い……。やだ、こ…いで……」 ほんのり染まっていた顔が蒼白になり、表情が強張っていた。 「どうし……」 (怯えている? 俺を?) 心配げに見下ろすレオンが、ブラッドには自分を襲った男達と重なって見えていた。抵抗する気力が無くなるまで暴力を振るわれ、手足を拘束された時の恐怖が甦っていたのだ。 レオンが 手を解放した途端、ブラッドは寝台を降りて部屋を出ようと扉へ向かった。 「ブラッド!」 レオンは素早くブラッドの躰を抱き上げ、寝台に戻した。 「い、嫌っ! 放し、てっ……!」 夢中で暴れるブラッドを抱え込む。 「違うっ…。ぼくは、何もしていない。殺さないで……」 その言葉で、ブラッドが城の竜舎で襲われた事を思い出した。 「…大丈夫だ、ブラッド。今、お前を抱いているのは、俺だ。レオンだ…」 レオンは敢えてゆっくりと喋り、ブラッドの背中を撫でた。 「もう、何もしないよ。大丈夫、怖くない。お前を傷つける者はいない」 抱き締める腕から逃れようと暴れていた躰から、徐々に力が抜けていった。自分を抱き締め、優しく撫でている手が誰なのか、漸く思い出したらしい。 「…レオン……?」 「そうだ。俺だ、レオンだよ」 良く見えるようにブラッドの顔を両手で挟んで眼を合わせた。怯えて潤んでいた瞳がレオンを認識し、自分の顔を挟んでいる手に自分の手を重ねた。 「レオン、ぼく……」 「分かってる。何も言わなくて良い。ゆっくり呼吸して落ち着こうか」 「ん……」 深呼吸を繰り返し、改めて自分が誰の腕の中にいるかを確めた。 (大丈夫、怖くない。レオンは、絶対にぼくを傷つけないもの) そう確信すると、今度は自分がレオンから逃げようとした事を思い出し、別の意味で蒼白になった。 「ご、ごめんなさい、レオン。ぼく、何て事を……」 「良いんだよ。構わない。俺の方こそ乱暴にして悪かった」 違う。 レオンはずっと優しかった。 傷つけたりしなかった。 「ごめんなさい……、ごめ……っ。酷い事言った……」 (レオンがぼくを殺す筈ないのに……!) レオンは泣きじゃくるブラッドの背中を撫で続けた。 漸く落ち着いた頃、レオンはブラッドの服を整え、横たわせて毛布を掛けた。こめかみに口接けを落とし、髪を優しく撫でる。 「レオン……」 一緒に横になり、ブラッド頭を自分の腕に乗せて安心させるように微笑んだ。 「さぁ、眠ろう。大丈夫。もう、怖い事は起こらない」 「うん……」 涙で濡れた睫毛が閉じられると、程なくして小さな寝息が聞こえてきた。額に被さっている赤毛を掻き上げ、瞼に軽く口接けた。 (あいつら、ぶっ殺しておけば良かったな。今から殺しに行こうか……) 愛しい少年を腕に抱えて、レオンは物騒な事を考えていた。

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