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第136話
ふわふわ…
ゆらゆら…
ふわふわ…
ゆらゆら…
夜明け前の菫色に似た薄明かりの中。
躰が心許なく浮いていた。それなのに、不思議と絶対的な安心感に包まれてるのが分かる…。
何か、暖かく柔らかいものが額に触れた。そこから、じんわりと熱が広がっていく。
軽い音を立てて温もりが離れていく。
それが淋しく感じ、少し悲しくなる。
今度は頬に温もりを感じた。
同じく軽い音を立てて離れたかと思うと今度は鼻だ。
何だろう……?
自分は知っている。
この優しい温もりを。
耳殻を指でなぞられた。
途端に背中から腰にかけてぞくぞくと震えた。でも、嫌じゃない。
くすぐったさに首を竦めると、耳に触れていた指が項に移動した。五本の指が髪を絡めながら後頭部を撫で上げた。
「んっ…」
思わず吐息が漏れた。
すると、その吐息ごと温もりが唇に触れた。温もりは上唇を味わうように吸い上げると、軽い音を立てて離れた。
「は…あ……」
深い水底にいた意識が急速に浮上し始めた。目醒めを求めて意識が水面を目指す。
深い眠りの中で揺蕩っていた意識が漸く覚醒し、固く閉じられていた瞼が薄っすらと開かれた。
眼の前に、夏の空よりも青い、蒼穹の瞳があった。その瞳の主は視線が合うと、嬉しそうに口許を綻ばせた。
「お早う、ブラッド。結構な寝坊だぞ?」
「レオン……」
恋人の名を呼んだ声は、記憶の中の自分の声より少し低かった。
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