136 / 149

第136話

    ふわふわ…       ゆらゆら…         ふわふわ…            ゆらゆら…  夜明け前の菫色に似た薄明かりの中。  躰が心許なく浮いていた。それなのに、不思議と絶対的な安心感に包まれてるのが分かる…。        何か、暖かく柔らかいものが額に触れた。そこから、じんわりと熱が広がっていく。  軽い音を立てて温もりが離れていく。  それが淋しく感じ、少し悲しくなる。  今度は頬に温もりを感じた。  同じく軽い音を立てて離れたかと思うと今度は鼻だ。  何だろう……?  自分は知っている。  この優しい温もりを。  耳殻を指でなぞられた。  途端に背中から腰にかけてぞくぞくと震えた。でも、嫌じゃない。  くすぐったさに首を竦めると、耳に触れていた指が項に移動した。五本の指が髪を絡めながら後頭部を撫で上げた。 「んっ…」  思わず吐息が漏れた。  すると、その吐息ごと温もりが唇に触れた。温もりは上唇を味わうように吸い上げると、軽い音を立てて離れた。 「は…あ……」  深い水底にいた意識が急速に浮上し始めた。目醒めを求めて意識が水面を目指す。  深い眠りの中で揺蕩っていた意識が漸く覚醒し、固く閉じられていた瞼が薄っすらと開かれた。  眼の前に、夏の空よりも青い、蒼穹の瞳があった。その瞳の主は視線が合うと、嬉しそうに口許を綻ばせた。 「お早う、ブラッド。結構な寝坊だぞ?」 「レオン……」  恋人の名を呼んだ声は、記憶の中の自分の声より少し低かった。

ともだちにシェアしよう!